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中島丈博 × 浅田次郎 × 杉田成道 × 内山聖子 × 十川誠志 × 林宏司 × 鈴木宣幸 トークショー レポート(1)

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 3月末、日本脚本家連盟創立50周年シンポジウムが行われた。第1部につづく第2部では、中島丈博理事長と金谷祐子常務理事が司会を担当。小説家の浅田次郎、演出家の杉田成道、脚本家の十川誠志林宏司、プロデューサーの内山聖子講談社の鈴木宣幸の各氏が出席。原作とシナリオとの関係について討議された。

 毒舌で知られる中島先生は、冒頭では「何分にも不慣れなもので、不体裁なこともあるかと思いますがご容赦くださいませ」と殊勝な物言いだったが、その後は案の定毒を吐いた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

【脚色のトラブル (1)】

浅田「呼ばれたのは、映像化された数が多いからだと思います。映画化が13本、舞台・テレビは数えておりません。原作と脚本の相関関係は…うーん、たくさん原作料もいただいてますし(笑)」

中島「昔から原作を脚本にする場合、トラブルが発生するのは珍しくありませんでした。石川達三さんという気難しい大作家がいらして『泥にまみれて』(新潮文庫)を東宝のプロデューサーに頼まれて脚本にしたんですね。これは主婦が奮闘する話だけど、その娘に重点を置いたドラマにスライドしてほしいと。そこで原作にない要素を書き加えて、主役のヒロインたちが同じ日にお互い処女を失いましょうと約束して、約束が守られなくて揉めるって話を差し込んだら、大先生の逆鱗に触れて(映画化の)企画が吹っ飛んじゃった。こういうことはままあって、でも昔は映像化されればまあいいや、媒体が違うから、と大らかだったと思います。いまは原作者が力を持っていらっしゃって、原作の通りにしろと圧力をかけることが多いですね。第1部では尾崎(尾崎将也)さんが脚本家は原作を直す係という認識が多いと言ってらっしゃいました」

 

 同じ日に処女を失う約束をして喧嘩になるというエピソードは、中島氏の『牡丹と薔薇』(2004)にて使われている。

中島「脚本家はいい映画にしたいという意気込みで仕事をしているわけですが、最近トラブルが増えています。講談社さんはNHKと係争事件が発生して、昨年暮れにめでたく和解が成立したと。新人脚本家は原作者に朱を入れられて、大変混乱して降りたりします。

 2年前、連盟にアンケートをとりまして、194名のうち33名が原作者とのトラブルありとの回答でした。林さん、十川さんもアンケートに答えてくださいましたが、おふたりの被害体験というか、こんな目に遭ったよというのがあれば。原作偏重主義が蔓延してると思うんですね。それを解決して、脚本と原作とをよりよい関係に改善していければ」

「連ドラでは、原作者から何か言われたというのは一切ないですね。終わってお会いして、喜んでいただけたみたいで。

 ある作品を3部作の大作でやったことがありまして、進め方は面白いけどその思想は好きじゃなくて、結末も…。そこで結末を変えていいですかと訊いて、とりあえずそれで書いてみてと。第1部を書いた段階で、原作者はOK。2、3部を書いたら、これじゃぼくの作品じゃないと言われて降りました」

十川「ぼくは実写とアニメーションを平行してどちらもやる。アニメーションは原作ありきでつくっていて、原作に縛られすぎ。てにをはも一字一句変えるなと。それが近年特に増えています。漫画を映像に変換しなければならないので、改変というよりアレンジ。ここを変えさせていただきたい、というだけですが。てにをはも変えられないというのは、ある脚本家は「写経だ」と。実写では、原作のドラマの会議の席に原作本がない。タイトルだけで、他はすべて構築していくと。それは原作をないがしろにしすぎかな…。原作で面白いシチュエーションは、そのままやればいい。タイトル借りただけで、オリジナルをつくってしまおうというケースもある。原作と映像とがコミュニケーション不全かな。合意があれば、そういうことにはなりにくい。最初の合意があればトラブルにはならないと思うんです。

 原作のいいところを最大限に映像化して、こうすればってところを変えればいい。原作通りとか原作をまるで使わないとか、その双方がナンセンス」

「ぼくは、リスペクトできる原作じゃないと脚色したいと思わないし、その原作を越えるようなものにしたい。そうでないと、脚本化する意味がない。できてるかどうか判りませんが」

浅田「私は割りとトラブルは少ないほうだと思いますけど。(プライベートでも)日ごろからトラブルは少ない。原作を一言一句変えるななんて無理な話で。どちらかが優位ではなく、お互いがクリエーターであるから。自分の作品をお預けしたから、おまかせする。がっかりすることもありますけど、それはその人に預けた自分の責任です。原作者は娘を嫁に出す気分。相手の家の家風があって、娘を嫁がせた親がどうのこうの言うのはマナー違反」(つづく

 

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