私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

中野昭慶 × 島倉二千六(島倉仁)× 三池敏夫 トークショー レポート・『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(2)

【『フラバラ』の特撮現場 (2)】

 『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(1965)は、国内での公開後にアメリカ側の要請により撮り足されるという異例の事態となった。

 

中野「公開してるのに撮影してた。フランケンが水野久美を団地に訪ねていくところは、公開後に撮ったね。

 アメリカからのいちゃもんで、円谷(円谷英二)さんも本多(本多猪四郎)さんも怒った。撮影終わってるのに何言ってんだと。向こうで公開するには尺が足りなかったんだ。長編は90分以上で、89分だと短編扱いで値切られる。何とか2分撮り足してくれないかと。完成してみんなで飲んだくれてたのに…。最終日まで団地のセットは使ってたんで、あしたこれをばらすよっていう直前だね。

 あの団地のセットだけで、美術さんは1か月以上関わってる。ロケハンして、実際にあるところをモデルにしてつくった。(モデルの場所を)さがすのは助監督だけど、どこか忘れちゃった(笑)」

 

 結末は、バラゴンを倒したフランケンシュタインが地割れに飲み込まれてしまうものと、突如山中に出現した巨大なタコと戦って相打ちになるものと2つあり、DVDでは両ヴァージョンが見られる。前者も唐突だが、後者もあまりの脈絡のなさに(登場人物は「何だあれは」「タコじゃないか」)見ていて笑ってしまう。いま上映用のフィルムはタコヴァージョンしか残っていないという。

 『フラバラ』の3年前の『キングコング対ゴジラ』(1962)にも大タコは登場。『キンゴジ』では本物のタコが使われた。海岸へ行ってセットをつくり、海でつかまえたタコを置いたという。 

 

中野「円谷さんはタコが大好き。『キンゴジ』でも、大タコで張り切ってたのは円谷さんだけ。あのときはタコだけで60匹使ったよ。タコに糸を巻いて引っ張ったり、棒でつついたり、最後はタコの目に光を当てた。スタッフってのは知恵者がいるよね。けちだから、使ったタコはみんな食材になって夕食はタコづくし。タコにいい想い出はないね(一同笑)」

 『フラバラ』のタコは、作り物である。

 

中野「円谷さんはアメリカの『キングコング』(1933)みたいにコマ撮りで大ダコを撮りたいと。でもコマ撮りをやってる時間がない。

 アメリカ人のプロデューサーは、タコはデビルフィッシュだからインパクトがあるということで『フラバラ』でもタコに。スタッフは厭がるんだけど、アメリカ人は『キンゴジ』でやったろって言うから、円谷さんはじゃあやろうと。「中野くん、また沖へ行くか」って言うけど、行ったらまたタコ食わされるから厭ですと(一同笑)。山の中にタコが出て来るのは納得できないって言ったら、円谷さんは向こうが言うんだからしょうがないよって。

 この映画は無駄な苦労があった。タコとか撮り足しとかね」  

【背景美術家 島倉二千六の軌跡 (1)】

 島倉二千六氏がトークに登場されるのは珍しいようで、後半は島倉氏中心のお話になった。

島倉「最初は独立プロで、小道具をやっていました。三國連太郎さんや田中絹代さんの道具係。田中絹代さんには「坊や坊や」って言われて(笑)。絵描きになりたくて東京へ来たって言ったら、背景に回してくれた。

 『日本誕生』(1959)のラストに出てくるアニメの白鳥を描いて、工学合成もやった。でも同じ白鳥を何度も描いて厭になって、『宇宙大戦争』(1959)から現場に出て背景を描きました。

 特撮のステージへ行ったら、すごい雲(の背景)があって、写真かと思ったら「これはエアブラシで描いたんだよ」って言われて「えっ描いたんですか!?」 とても写実的で、こういう仕事やりたいなと」

島倉「『連合艦隊司令長官 山本五十六』(1968)でもここを描きものにするのか、とか円谷英二さんの発想はほんとにすごい。頼まれただけでも嬉しいですね。『キンゴジ』ではロケのタコの(背景の)絵を描きました。『フラバラ』は山とかを描きました。空は鈴木(鈴木昶)さんですね」

中野「円谷さんは、やっぱり変えようとか、すぐ言う。曇天をピーカンに変えてくれ、あしたまでとか」

島倉「背景はゴリゴリしていて凹凸がある。でも離れてみると、リアルに見えたりしますね」

中野「彼の仕事を近くで見ると、何が描いてあるのか判らない。でも離れてみると見事な雲なんだ。並みじゃないよ」(つづく