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三池敏夫 トークショー “特撮映画の美術 井上泰幸の時代” レポート (2)

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三池「『太平洋の嵐』(1960)では、実際の海でのミニチェア撮影もやっています。戦艦は13メートル。船舶法があって大きい船は勝手に浮かべちゃいけないということでこの大きさに(一同笑)。『連合艦隊司令長官 山本五十六』(1968)ではこれを改造して、アメリカの空母にしてます。ミニチェアとは言えこの大きさです。一方でちっちゃい船。艦隊が大海原を航行するのを、空撮してるみたいな画。『太平洋の嵐』ですけど、手のひらサイズの船です。寒天の海をつくっています。深さは2cmくらいで、足形がつかないように、ぎざぎざの寒天プール用の靴を履いてます。船に細いピアノ線で引っ張って、前進するんですね。ミニチェアに綿が仕込んであって白い絵の具が染みこませてあって、船を引っ張ると航跡が残る。素晴らしいアイディアですね。のちの中野昭慶監督の『日本沈没』(1973)は、寒天よりも細かい波に見えるような素材で日本列島の周りの30㎝くらいの深さにして、列島をハンドルで下げて沈むようにしたそうです」 

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三池「『モスラ』(1960)では海外でも人気になったころです。幼虫が渋谷を行くシーン、先頭に中島春雄さんが入って7〜8人がやってます。幼虫は、東宝の怪獣の中ではいちばん大きいんじゃないですかね。映画の中では1体ですが、撮影用には大中小のサイズがあります。東京タワーは333メートルで、本当はモスラの幼虫はもっと大きくなってるはずですけど、撮りやすいサイズでやってますね。ダム崩壊のシーン、ダムの空の奥には水タンクがあって、金属でつくったもので1トンの水が入ってます。傾斜があって、そこへ水をばしゃっとやる。見えないところの仕掛けも井上さんです」 

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三池「『モスラ対ゴジラ』(1964)では卵が漁村に漂着して、漁民が集まってくるシーン、寄ってくる船は仕掛けが入っていてちゃんと漕ぐ。人形が動いてるんですね。大プールで空撮ふうにしているので、高く足場を組んでいます。太陽で影が出ないように奥のほうに組む。その足場づくりのプランも、撮影部でなく井上さんがやっているんですね。画角の計算もセット設計の段階で考えています。美術部もカメラからどのくらい離れると、縦横でこういう見え方になると井上さんが考えてる。『零戦燃ゆ』でも滑走路から飛び立つシーンのセットプラン、このシーンはこのアングルでここから撮ると井上さんが設定しているんですね。どういう画が撮れるかは事前に美術が考えるということで、そこまで踏み込んでやってた」 

三池「『大阪城物語』(1961)はメジャーではないですが、当時の大阪城を再現しています。怪獣、戦争、時代劇と年間4、5本同時進行で忙しかったと思います。旗がはためいたりも現場でやってますね。

 『妖星ゴラス』(1962)は絶頂期、『アルマゲドン』(1998)に通じるような惑星衝突の話です。南極へ船団が行くシーン、引き画は寒天プールです。氷原を割って進む船は大きいミニチェア。南極基地は東宝にある特大の第8ステージめいっぱいつくったらしいです。円谷(円谷英二)監督にやりすぎだと言われたそうですが、最終的には監督もご満悦だったようです。ゴラスが去った後に東京と大阪が水没している場面は、川にミニチェアを持って行ってます。川底は平らじゃなくて、水平に建物を置くのが大変。冬の撮影だったと思いますけど(一同笑)。建物が流されないようにするのに。重りも入れなきゃいけない。向こうの岸があって見学者もいっぱいいますけど、ここはマット画の合成で隠してます。合成のトップは向山宏さん。ミニチェアはみんな気づくけど、隠してる部分は気づかないですね」 

三池「『海底軍艦』(1963)の轟天号のデザインは小松崎茂さん、『地球防衛軍』(1957)も小松崎さんですね。海も空も地中も行くスーパー兵器。地下のムー帝国のセットデザインは井上さん。部品の図面は助手さんです。ムー帝国の仕業で東京のビル街が陥没するシーン、道幅はカメラに近いほうが広くしてあります。血管が伸びているような感じですね。肝腎なのはどう崩すか。地割れをどう分割するか、どういう仕掛けで陥没させるかのプランも井上さんです。つっかえ棒を置いてどう引っ張るとか。下に落っこちなきゃいけないので、2メートルくらいの高さにビル街を組んでつくり込む。このディテールは時間を要したでしょうけど、井上さんも最大級の壊しだったとおっしゃってました。渡辺(渡辺明)さんから主導権が井上さんに移っています」 

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三池「『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965)のバラゴンのデザインは渡辺さんで、造型は利光利光貞三)さん。タコも出てきます。団地のシーンではフランケンシュタインはまだ巨大になってませんので、逆にセットが大きいんですね。傾斜もあるので、結構大変です。怪獣が小さいとセットが大きくなる。船も大きくて1、2分のシーンのためにわざわざつくっていて、当時の東宝の底力ですね。バラゴンが地下を移動して、陥没する。地面が持ち上がるのは、おそらくスタッフが下から押し上げてるんですよ。だから図面では下に空間があります。記念写真では合成もあって、この時代は余裕が感じられますね」(つづく)