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野木亜紀子 × 磯山晶 トークショー レポート・『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』『流星の絆』(3)

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【磯山作品を振り返る (2)】

磯山「『池袋ウエストゲートパーク』(2000)は、最後に台本の締め切りと撮影が押してて。そんなころに(宮藤官九郎が)多重人格のことをCDになれよって書いてきたときは、すごいなこの人って思ったのを覚えています。こんな(シリアスな)シーンがたくさんある番組じゃないけど、台詞には胸を打たれました」

野木「ぶくろサイコーよりめんどくせえが好きで、あれが新しい。熱血な主人公が多いけど、私はそんなの全然好きじゃなくて。後で原作読んだら、めんどくせえが出てこない(一同笑)」

磯山「『池袋』の6、7話は佐藤(佐藤隆太)くんが妊娠させてお金つくるとかで、愉しくて。戦いや多重人格はやっててつらい。愉しいのだけやりたいということでつくったのが、『木更津キャッツアイ』(2002)です」 

 『木更津キャッツアイ』は、主人公(岡田准一)の余命が3か月という設定や、1話を分割してひとつの事件を表裏で描くという特異な構成も面白い快作。『逃げるは恥だが役に立つ』(2016)など、磯山晶プロデューサーと組むことの多い演出家・金子文紀が、初めてチーフディレクターを務めている。

 

磯山「最初に企画を決めたとき、ぶっさんが余命3か月というのをやりましょうと。1話で余命3か月と言っても、嘘だと取り合わない。臨終で、病床でみんながいろいろ言うけど、突っ込みしかないというのをやりたいと。

 田舎に帰るといつまでも高校の夏の話をしてる、青春を盛り上がり損ねた人たち。それをそもそもやろうと。宮藤くんは最初にやりたいってことから、最後までぶれない人ですね。

 表裏にしたのは、金子さんのアイディアです。当時全10話(の予定)だったけど、1話のオンエアの日に(裏番組に)『となりのトトロ』(1988)が来ると。そこで1話短くして9話に。それで9回で表裏になりました。10話だったら延長戦にするはずだったんですけど。

 宮藤くんにあるのは地元愛。親とか兄弟とか町の人を描きたいというのが常にあって。

 『八月のクリスマス』(1998)という韓国映画を見て、すごくいいなと。写真館の主人の話で、死ぬと判っていて写真を撮る。宮藤くんと最近よかったもののことを喋るけど、だいたいお互い見てないんです。宮藤くんは『スナッチ』(2000)をやりたいと(一同笑)。組み合わせてやりました。役名は、宮藤くんは絶対自分で決めてきますね。最初は“がんばれ!タブチくんたち”というタイトル。次は“西船橋死ぬ死ぬ団” (一同笑)。

 当時サッカーが人気で、でもサッカーはやりたくない。宮藤くんが「ぼく“熊沢パンキース”って舞台やったことありますけど」って。それを下敷きにしましょうと。

 宮藤くんとは何をやるかを(最初に)1時間くらい喋って、それで必ず最後まで行く。途中で変わったりしないですね」

 

 最終話で主人公が倒れ、レギュラー一同が病院に駆けつけるシーンが上映された。

 

磯山「このとき小日向(小日向文世)さんが忙しくて、三谷(三谷幸喜)さんの舞台が大阪であって、深夜バスで帰ってきてもらって。全員揃うのがこの日だけ。最初の顔が映ってないところはADがやってます(一同笑)。最後の涙がぽろりと流れるシーンもテイクワンでやって、岡田くんは素晴らしいですね」

野木「岡田さんは、まだ出始めですね」

磯山「本人も気合い入ってましたね。準備稿がぼろぼろで打ち合わせに来るとか」 

木更津キャッツアイ Blu-ray BOX

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 宮藤 × 磯山コンビの中でも、マニアックだが暖かみを感じさせるのが『マンハッタンラブストーリー』(2003)。喫茶店の客たちの恋愛模様のために?店長(松岡昌宏)が奔走する。

 

磯山「ラブが足りない、ラブやれば当たる。池袋、木更津と来ていちばん遠いのがマンハッタン。“純喫茶マンハッタン”というタイトルだったんですが、会社にダメと言われて」

野木「それは会社の判断が正しい(笑)。『池袋』でなんかびっくりして、見たことないものを見たと。でも『木更津』では裏表で、それも見たことない。『マンハッタン』は、アルファベットのAから恋がつづいてリバースで戻ると。まるっと裏が展開するという構造でした」

磯山「よくドラマをつくるとき、テレビ誌に人間関係の相関図があって矢印が好き、気になるとか向かってて。あれを店長が見てるという。

 裏が『白い巨塔』(2003)で、ラブ入れてもダメと(一同笑)。

 (タクシー運転手役だった)尾美(尾美としのり)さんが『あまちゃん』(2013)のとき、宮藤くんの朝ドラ出るけど、タクシー運転手だけどいい?って」 

 東野圭吾原作『流星の絆』(2008)は、両親を殺された兄妹の復讐劇。

 

磯山「作家さんによって距離がありますけど、原作が嫌いな人はやらないですね。

 まず原作者さんや編集者さんにラブを訴える時期があって、やがてこういうのどうでしょうと提案していく。東野先生は犯人とトリックは変えちゃダメと。石田(石田衣良)さんは何もおっしゃらなかったですね。東野さんは毎週編集者さんと見てカラオケで主題歌唄うと聞いたので、愉しんでいただけたのかなと。

 詐欺を毎週やるので、劇中ドラマにして。金子さんが、遺族だって笑っていいと喫煙所で話したらしくて」

野木「劇中劇はふざけてましたね」

磯山「詐欺を普通にやると寒くなるので、タイトル出してお客さんに身構えていただくと」 

流星の絆 Blu-ray BOX

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 最後にメッセージ。

 

磯山「テレビ局に入ってからドラマしかつくってなくて。台詞と音楽との総合芸術と言うと大げさですけど、集結させることで喜怒哀楽を感じてもらうという職業ですので。

 100人くらいの人が寝食忘れて頑張る。終わるとじゃあねって。悲しいこともあるけど」

野木「きょうもドラマ展を見ていて和田勉さん、山田太一さんの直筆のものもあって、1960年代から命がけでテレビをつくっていた人がいた。映画界はテレビを下に見ますけど、私は両方面白いと思っていて、昔からこれだけの作品をつくっていた人たちがいるのに、私たちもへっぽこなものを出してられないなと」