小学5年生くらいで8月15日の終戦を迎えました。戦時中に先生が、いま日本では原子爆弾というすごい兵器ができているという話をして、ぼくも興奮した。それでひとりでも多くのアメリカ人が死ねばいいと。教育のせいでもあるけど、アメリカが爆撃しに来るわけですからその敵を愛するわけにはいかなかった。日本の科学力では(原爆を)先につくれなかっただけで、先につくってたらニューヨークやワシントンに落としていたかもしれない。そういう相対性を子どものころに味わってしまって。
日本人に攻撃性があって、戦争に反対する人を袋叩きにしたことがあったんです。まだ子どもでしたけど、それが、ぼくが戦争を考えるベースにありますですね。信じがたい殺戮をするISILも内部の価値観を叩き込まれてああなった。竹槍でアメリカ人を刺してやろうとか、バケツで火事を消そうなんて、焼夷弾が来たらそれどころじゃないのに。防空壕をつくるより逃げたほうがいいとか。そういうことが再現されないことはない。
原理的に戦争はよくない。戦争がなければいいのかとか、高みを目指さなくていいのかと言う人もいるけど、ぼくはそれでいいと思っていて。命を寄こせって通知が来て、死んでも当然で。兵士にもエゴイズムがあって満州では市民をケアしないで先に帰ってしまった。そんなものですね。
屈辱であっても戦争しないでほしい。戦争になったら上官に反論できないことのほうが屈辱ですよ。中国が攻め込んできて沖縄を占領しちゃうとかリアリティがない。言うことを聞かなければアメリカが日本をいじめるだろうけど、滅ぼすことはないだろう。戦後のアメリカの占領政策はそれほど残酷じゃなかった。それをもう少し信じてもいいんじゃないかな。
(『この人たちについての14万字ちょっと』〈扶桑社〉にて山田氏にインタビューした)重松清さんがぼくの目が怖いって書いているんですが、それはただの老人症でね。ぼくが愛想よくしてるから真顔になると怖くなるのかな。インタビューでただ気のいいじじいというだけじゃと思って粉飾してくださった(笑)。ただドラマのライターをしているので、普通の人より、人の心に関心があるかもしれないけど。
- 作者: 重松清
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2015/04/03
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
若いときは、どうしたって性欲で女の人を見る。バラが綺麗で匂いがいいからって食べるとおいしくない。そういう間違いをよく犯しました(一同笑)。だんだん性欲もなくなって人柄で見たり。若いときはこういう人をいいと思うかな、あのころは目が曇ってた(一同笑)。俳優さんは綺麗だけど、みんないい人かって言ったらそんなことはなくて普通の人と同じで意地悪もある。
(51歳の人から老いについての質問を受けて)51なんてまだ青年ですね(笑)。老人だから容姿が衰えて、ぼく自身が老人だから尊敬せよとは言えない。でも老人だからあきらめることができるっていうこともある。定年になったらリセットして新しい人生を、とか言う人もいたけど、いまはいない。だんだん老人が判ってきた。(定年後の)世界旅行とかカルチャーセンター、ダンスとか性に合わない人もいるでしょう。50過ぎて自分をリセットなんてできない。骨がらみ自分ですよ。自分の人生を大事にしてプライドを持って生きていけばいい。世界旅行したくらいで自分は変わらない。変わるには年月や努力が必要です。
(『ふぞろいの林檎たちⅢ』〈マガジンハウス〉のあとがきで演出に激怒しているが)あとがきは若気の至りで、あの後は(演出の)鴨下(鴨下信一)さんとも変なことになって。頭にきて、鴨下さんに言わないであとがきに書いちゃったと。こういう演出をしてもみんなで愛想よくしているってのはどうなのかなと思って。いまだったらもっとうまく言う(笑)。
- 作者: 山田太一
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 1991/02
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
(自分の住む)川崎にある老人ホームで殺しちゃったとか、あれに感情移入するのは無理だと思うけど、でも判ろうとしたほうがいいと思うけどね。川を裸で泳がせて殺しちゃうとかあれも川崎で、川崎の評判が悪くなって土地が安くなるかな(笑)。
(『絶歌』〈太田出版〉の元少年Aやエンブレム問題の佐野研二郎などについて)いつの時代もそういう人はいるけど、戦争のときにはそれが見えやすくなる。靴泥棒が流行って何だっていいからって靴を盗っていっちゃう。すごい時代がありましたですね。人間は怖いものですね。ボランティアをやって自分はいい人だって思う人もいるだろうけど、厳しい時代になれば自分の醜さにびっくりするんじゃないかな。
3.11の翌日にスーパーへ行ったら棚ががらがら。買い占める人がいて、生きるってこういうことだな。ぼくの小さいころはこうだった。のんきだったな。状況さえ許せば自分もそういうことをするかも判らない。心配ないと判って、絆とか言い出した。
70年も平和がつづいて、人がよくなっています。みんな自分がいい人だと思っていますが、情況がちょっと悪くなればエゴが顔を出す。人間は怖いものだと思って油断しないようにしましょう(笑)。
- 作者: 山田太一
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2018/05/25
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る