私の中の見えない炎

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黒沢清 トークショー レポート・『フック』(1)

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 閉館が決まった吉祥寺バウスシアター爆音映画祭)にて、スティーブン・スピルバーグ監督『フック』(1991)のリバイバル上映が行われた。『フック』は、巨額の制作費や豪華キャストで公開当時は話題を集めたけれども、いまはあまり顧みられることのないファンタジー大作。

 仕事人間の弁護士・ピーター(ロビン・ウィリアムズ)は妻子に嫌われていた。ある夜、子どもたちがさらわれ、窓にはフック船長(ダスティン・ホフマン)からの挑戦状が残される。実はピーターこそが大人になったピーターパンであった。ティンカーベルジュリア・ロバーツ)とネバーランドへ渡った彼は、子どもたちを奪還すべく特訓する。一方フックは仕事しか頭にない父を棄てて自分のもとへ来いと、子どもたちを巧みに誘惑。長男はフックに心を動かされるのだった。

 上映前に『CURE』(1997)や『叫』2007)、『リアル』(2013)などで知られる黒沢清監督のトークが行われた。『CURE』や『蛇の道』(1998)の深い闇はトラウマ級で、そのような尖鋭的なホラー作品の黒沢監督と『フック』とは意外な取り合わせに感じるけれども、氏はスピルバーグの愛好者でエッセイやインタビューなどで頻繁に言及している。開始前に下の喫茶店で待っていたら、目の前を黒沢監督が歩いてきたのでちょっと驚いた。爆音映画祭樋口泰人プロデューサーによると黒沢監督が公開当時に月刊誌で『フック』を誉めていたのでトークに呼ぼうと言うことになったらしい(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや、整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 爆音映画祭では)ロバート・ゼメキス監督の『キャスト・アウェイ』(2000)を3回もやるんですね。傑作なのに忘れられてしまった。この次の『ホワット・ライズ・ビニーズ』(2000)もです。ゼメキスはすごい映画を撮りつつ、ほとんど話題にならない。本人も意気消沈して、アニメのほうへ行ってしまいまして、最近また(実写に)戻ってきたようですけど。

 よりによってなぜ『フック』なの?と。『宇宙戦争』(2005)や『未知との遭遇』(1977)ならぼくは大好きですけど。

 いまはなくなった「シティロード」でたしかに誉めたんです。「とても複雑な錯綜した映画、しかし見なければいけない」とか。蓮實重彦さんがぼくを「世界でただひとり『フック』を誉めた男」と言ってまして(一同笑)。

 20年以上経ちますが、スピルバーグの経歴の中で『フック』は語りづらく忘れられがちです。

 スピルバーグは『ジョーズ』(1975)を大ヒットさせて一躍人気者になって、『レイダース 失われたアーク』(1981)と『E.T.』(1982)で不動の興行収入を樹立しますが、その後しばらく低迷します。プロデュースはするけど(監督業は)鳴かず飛ばず。『ジュラシック・パーク』(1993)が大ヒットして、ほぼ同時につくった『シンドラーのリスト』(1993)がアカデミー賞で復活して今日に至るまで第一線にいる。彼の低迷期の最後の作品が『フック』です。

 昨年、インターネットで見たんですが、アメリカのジャーナリストがスピルバーグ全28本のランキングを発表したんです。1位が『レイダース』、『フック』は27位(一同笑)。28位は『インディ・ジョーンズ クリスタルスカルの王国』(2008)。堂々たる最下位な感じです。『フック』は最下位でさえ、ない(一同笑)。ぼくの好きな『宇宙戦争』と『マイノリティ・リポート』(2002)は6位と7位で健闘していますね。 

 どうしてこうなるのか。『フック』を見れば、ああなるほどという感じなんですが(一同笑)。(つづく