【『翔ぶ男』(2)】
池端「脚本家はいい演出家といい役者がいると、ここどうするかって余白を残しとく。そこを信じる部分がありますね、脚本家には。画を全部指定するよりは、ここまで引っ張って、あとはやってくださいと。演出家も「やってみてください」って言って、役者がいい表情すると「それもらいます」と。映像はそういうところがありますね。
(足りないと思うと)書き込みますね。この人ならこうやるんじゃないかという期待がある俳優さんには、まかしますと。初めての方や肌合わないなという人には、細かいところを。(俳優によって)台詞は同じですが、ト書きが変わりますね。量が増えたり(笑)」
【『羽田浦地図』】
池端「自分が何で物書きになったんだろうとときどき思うんですけど、ある人物を書きたいという衝動があって。緒形さんを見てると、自分の父をイメージしてる。緒形(緒形拳)さんとは、歳はそんなに離れてないけど。父は海軍で、戦争に行って帰ってきて、世の中とうまく折り合っていけない。そういう人間を書いているというか。戦後、うまく翔べない。結果的に翔べない男を書いちゃった。(作品歴を)振り返ると、そういう人物が多い。漱石を読んでいて面白いのは、漱石がじゅくじゅくしてるところ。明治の開明期をうまく生きていけないところがあるな、と」
緒形拳主演『羽田浦地図』は第3回向田邦子賞を受賞した、池端氏の代表作のひとつ。上映されたのは、緒形氏演じる主人公がつらい過去を告白する場面。
池端「『羽田浦地図』の舞台は、もともとは漁村だったんですね。戦時中は軍事工場で、戦後アメリカに接収されて。そこが時代とともに変わっていって、住む人間も変わっていく。昔の羽田の地図を残したいというのが物語の背景で、戦時中(別の土地で)働いていた緒形さんが戦後に旋盤工として戻ってきて。いろいろ引きずってて、戦時中のお女郎さんをつれて、昔の仲間に会って、そこでしばらく人間模様が展開する。いろんなものを引きずっていかなきゃいけないという苦い物語です。
空襲で火事から家族を引き離せないで、逃げ出しちゃう。痛ましい証言が、東北の震災でもありましたけど、戦時中からよくあったんですね。(主人公は)母を助け出せなかったという、そういう負い目を背負っている人物です。おふくろを見殺しにした、翔べない存在でもある。時代がそうさせちゃったんだなと」
【『大仏開眼』】
『聖徳太子』(2001)、『大化改新』(2005)そして『大仏開眼』(2010)と歴史ドラマも手がけている。
池端「吉備真備(吉岡秀隆)という、唐へ行って戻ってきた人で、権力者の藤原氏と戦うという。無意識かもしれませんが、戦いの嫌いな男が藤原氏(高橋克典ら)と戦う決意をする。彼は敬虔な仏教徒だという資料はなくて、合理的な科学者だったのが、大仏、つくりかけの東大寺のですね。それを見て戦おうと決意する。大きなものがあると、翔べない男も翔ぶのか(笑)。そこへ持っていきたかった」
大仏はオープンセットとして立てられ、スタジオにも持ち込まれた。かなりの大きさに思えるが…。
池端「(大仏は)CGは厭だって言ったんです。思ったより小さくて、不満だった(笑)。東大寺の大仏は、何が魅力か自分でも判らない。仏教的な背景ではなく、あの大きさに感動するのかな。あの時代の人がこれをつくったのか。だからなるべく大きいのつくってくれと。でもちっちゃかった(笑)」
聞き手の岡室美奈子氏は、池端作品には翔びたい男と大きなものを見上げる男の系譜があり、『大仏開眼』は後者であると指摘する。
【その他の発言】
池端「(デビュー作のアニメ)『みなしごハッチ』(1971)は学生のころ、アルバイトで関わってまして。ああこういう仕事もいいかな、書いたものでお金がもらえるって。でもやっぱり実写がいいと思って半年で辞めちゃいました」
最新作は吉村昭原作『破獄』(2017)。1985年にも、緒形拳主演でドラマ化されている(脚本:山内久)。今回の主演はビートたけし。
池端「以前NHKで、緒形さんと津川雅彦さんで。緒形さんが網走刑務所から4回脱獄する。吉村昭さんが実在の人物を小説にして。緒形さんはいいなって思った作品でした。
山田孝之さんがいま、当時の緒形さんに近い。津川さんの役が、ビートたけしさん。前と違って、看守から見た脱獄犯。ビートたけしさんは、翔びたい男の気持ちが判るけど、それを阻止するという役回りです。翔びたい鳥の話も出てくる。
今回、自分の作品を振り返ってみて、逃げる、逃がさないという宿命を描くのが自分は好きなのかなと思っています」
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