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池端俊策 トークショー レポート・『夏目漱石の妻』(1)

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 3月、早稲田大学の小野記念講堂にて毎年恒例である脚本アーカイブスのシンポジウムが行われた。第1部は脚本家の池端俊策氏のトークショー(時間的な都合により第2部は聴講できず)。

  池端氏は『羽田浦地図』(1984)などにより向田邦子賞を受賞した巨匠で、筆者は『魔性』(1982)や『風の棲む家』(1989)、『悪女について』(2012)など演出家・鶴橋康夫とのコンビ作の印象が強い。最近は『夏目漱石の妻』(2016)が注目を集めた。岡室美奈子早稲田大学演劇博物館館長が聞き手を務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

【『夏目漱石の妻』(1)】

 『夏目漱石の妻』にて漱石の妻・鏡子役を演じた尾野真千子氏は、『足利から来た女』(2014)、『松本清張 坂道の家』(2014)でも池端氏と組んだ。

 

池端「(漱石の妻・鏡子役の)尾野真千子さんは、この2、3年前に『足利から来た女』という作品に出ていただいて、素晴らしい女優さんだというのが残ってまして。企画が持ち上がったときに、悪妻と言われる鏡子さんがほんとに悪妻なのか。やっていただけるのは、尾野さんがいちばんかなと。最初から尾野真千子でやりましょうと始めました。

 漱石に焦点を当てたら、えらいことになる。研究者は石投げればあたるくらいいて、変なこと書いたら何を言われるか(笑)。奥さんからのほうが面白い。人間は、真実は判らなくて、他人が判断するしかない。そこで、いちばん近い奥さんから漱石を描くと。

 鏡子さんが筆談で喋っていらして、それを娘婿の方が文章にしたものがあって、それを下敷きにして。漱石の研究との符号性に手間取って。どちらの言ってることが本当か判らない。ただ鏡子さんはのちになって喋っていて、客観的で信憑性も高いかなと」

漱石の思い出 (文春文庫)

漱石の思い出 (文春文庫)

 

池端「収録をするとき何度か立ち会いましたけど、重要なシーンの前で、こちらは喋らないほうがいいかなと。でも本人は、あのお酒がいいとか、楽屋でタバコを吸っちゃいけないとか話してて、とっても面白い方。この後が父親を追い返すシーンで、大丈夫かなってくらい朗らかにあははと。でもセットに入ると、顔つきが変わってきて、本番になると涙がぱたぱたと。演出が残酷で、照明がダメだからもう1回と。尾野さん、終わったと思ってたのにもう1回で慌ててまた戻って、涙をぱたぱたと。もう芸術的ですね。

 漱石の長谷川(長谷川博己)さんは長く芝居(舞台)をやってた方で、台本が(全4話中)3話までできたところで収録に行くと、深刻な顔で「台本は?」と。1話から3話じゃダメなの、あなたいつもこんな深刻な顔なのって言ったら「漱石ですから」と(一同笑)。いまは3話から逆算して芝居しているからラストが知りたい、「終わりが見えない」と。尾野さんは感心して「はあー」。尾野さんはそのときそのときでやってますと。長谷川さんは、計算されている方。どう見ても背が高くていい男で、でもこれはこれで漱石、あの時代の物書きになってる。すごくいい仕事をされていて、キャスティングは成功だったと思います。

 尾野さんはほぼ台本通りおやりになる人ですが、間の攻め方が…。漱石に自分がどうコミットしていくかという、心理の段取りが見える。気持ちが変わっていくのが、表情から読み取れる。普通、暗いところから明るいところへポンッと行くのはできても、徐々に変えていくのは難しい。尾野さんはそれが素晴らしい。

 漱石は士族ではなく高等な町民の出で、奥さんは岡山の士族の出。江戸時代は身分の差にうるさくて。

 日露戦争で日本全体が盛り上がってるころで、漱石は『吾輩は猫である』で世に出る。物語はその時代です。小説で言うと『道草』。この作品は漱石の告白と言われていて、実は正直ではなく変えているんですが、その中に夫婦像、『吾輩』のころが描かれている。『道草』が書かれたのは大正時代、亡くなる1年前ですね。苦労して『吾輩』でうまくいったころを、夫婦のことをからめて書いている。

 漱石はコンプレックスの強い人で、背が低い。留学先のロンドンでは、外人の背が高くて圧倒されたという説があります。留学ではアジア人のコンプレックスを感じて、帰って精神を病んで。一方で奥さんはあっけらかんとして、士族の出で。身分の高い家から来たから、朝寝ぼうしてもけろっとして。漱石は妻が疎ましくなってくる。妻を追い出そうとして、凄まじい確執があって、出て行ってもまた戻ってくる」(つづく

 

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池端俊策ベストシナリオセレクション1

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