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山田太一 × 荒井晴彦 トークショー レポート・『無法松の一生』(1)

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 荒くれ者の人力夫・無法松と陸軍大尉の未亡人を描いた映画『無法松の一生』(1943)。主演は阪東妻三郎で、未亡人役は広島原爆で犠牲になったさくら隊のメンバーである園井恵子が演じている。脚本は、伊丹十三の父・伊丹万作

 3月に横浜で、『無法松の一生』のリバイバル上映と脚本家の山田太一氏のトークショーが行われた。このほど名作映画のシナリオと解説を収録した『日本名作シナリオ選』(日本シナリオ作家協会)が出版されたのを記念した企画だが、山田先生は『東京物語』(1954)の解説を担当しており、どうして『無法松』が回ってきたのかよく判らず引き受けたのだという。『無法松』について山田先生が語るのは珍しい気がするので、愉しみだった。

 聞き手は、山田ファンの毒舌脚本家・荒井晴彦氏が務める。何も打ち合わせせずに本番なのだとか(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

【『無法松の一生』の作品論 (1)】

山田「荒井さんが入ってくれると知らなくて。ちょっと怖いけどね」

荒井「一昨日、初めて見て。面白くないんで…」

山田「昭和18年だったかな」

荒井「10月28日公開で、明治神宮で学徒動員の壮行会があった直後です」

山田「昭和19年に強制疎開でうちが壊されて、それ以後映画を見てない。だけど、くっきり記憶にあるんですよ。いつ見たのかな。空襲はまだ始まってなくて。もうじき東京を離れるから、親父か兄が映画でも見せておこうかって思ったのかな。回想シーンをよく覚えていて、子どものころはそんなに見てないから印象が強くて。ぼくはいまも、なかなかの作品だなと。

 幼稚なところがない。あの時代としては、ふわふわした思いつきでなく、狙いがある。

 凧の糸がからんでるところは、飛んだり跳ねたりして怒って」

荒井「あれはやりすぎじゃ(笑)」

山田「ト書きで指定してて、あんなに怒ってる割りに、すっと戻ってくるとか。夜道を行くところの映像とか、白黒のせいかな。

 大正デモクラシーを経て、モダンな発想をしている」

荒井「(シナリオを読まないと)映画だけでは判りにくいけど、検閲批判とか反軍事、反警察が1本通して入ってる。反権力として措定されてる。ファッショ的な映画の中では目立ったでしょう。よく企画が成立しましたね」

山田「面白いから検閲官が見逃したんじゃないかな。そしたら大ヒット。

 西洋化している文化の安っぽさを感じてる人は感じてるところもあって、戦争が起こって強いというのが肯定されるようになって。(『無法松』の)学がない人の素晴らしさが響いた。明治までは近代化近代化で来たけど、それは安っぽい。鹿鳴館に民族衣装で来た中国人に対して、日本人はヨーロッパふう(の服装)で、猿が変装してるみたいで見苦しい。そういう思いがあって、ほんとの日本人はまだいるぞって。そこでああいう人物に光を当てようって」

荒井「それはキワキワですね」

山田「あの男の美意識、モラル。

 阪妻がいいというのもあります。阪妻さんは京都の系統で、ただの荒くれにならない色気がある。それで無法者の気持ちよさを描いている。阪妻さんの『将軍と参謀と兵』(1942)、ぼくはこれも見ていて、将軍をやってて、とにかく勇ましい。それに比べて、『無法松』は普通の人を魅力的に描こうとしている。言いたいことを言わないでがまんする。笠智衆さんもそうで、言わないことの美しさがある。言わないと、女の人は判らないけど」

荒井「ぼくも言われましたよ(笑)。高倉健もそうですね」

山田「女の人は、ああいうのと暮らしたくない。でも沈黙の美しさというか」

荒井やくざ映画では、喋らなくても女が判ってくれますね」

山田「それは男の甘え(笑)。でもこの作品は、未亡人が判ってないと成り立たない」

荒井白井佳夫さんは、無法松は被差別部落出身じゃないかって言ってますね」

山田「それはありますね。自分は下の人間だと自分で認めてる。民主主義になると古いことだと思ってしまいますけど。

 普通じゃ通用しない存在は、時代が洗練されると出てこなくなる。でもそういうトリックスターがほんとのことを言う。ほんとのことを言うと迷惑だからはしゃいでる脇の人として扱ってしまうけど、トリックスターも必要です。一方で洗練のよさもあって、小津(小津安二郎)さんも洗練されていって、後期の作品は身動きできないくらい」

 

 『無法松』は検閲によって、かなりの部分がカットされたという。

 

山田「検閲で切られたけど、あのころの検閲はあんなもんじゃない。いい映画だったから、何となく見逃した部分がある。あのころは兵隊万歳、戦争万歳ばっかりです。ある作品はズタズタに切られて、上映されても何だかよく判らなくなったり。『無法松』は一応判りますね」

荒井「検閲で切られた部分がないと、何の映画か判らない。肝が…」

山田「重大なところを切られてますけど、シナリオだけで復活しているところもあって。“おれはきたない”って言うところは映像にないけど、シナリオにはありますですね」(つづく)

 

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