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私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

三谷幸喜 インタビュー(1998)・『今夜、宇宙の片隅で』(2)

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 ニューヨークのアパートを舞台に日本人男女(西村雅彦、飯島直子石橋貴明梅野泰靖)の応酬を描き、シットコムの笑いを狙ったのが、テレビ『今夜、宇宙の片隅で』(1998)である。脚本を手がけたのは、三谷幸喜。以下に引用するのは、月刊誌「ザ・テレビジョン」1998年10月号に掲載された、三谷氏のインタビューである。

 

 とにかく、普通のドラマは作りたくないんです。そもそも僕は、ドラマの世界の人間じゃないし、いわゆる外様ですから。プロのライターさんが怖くてとてもできないような冒険をあえてやるのが、使命じゃないかって。失敗しても僕ならどうってことないし。去年の『総理と呼ばないで』もかなりの冒険でしたけど僕は満足してます。ビデオで見返しても面白い。もちろん反省点はあります。確かに数字は低かったけど、少なくとも、あんな作品、後にも先にもないだろう。という自負はある。だから今回の『今夜〜』も、いちおう基本線はドラマの王道のラブ・ストーリーですけど、中身はかなり冒険してみたわけです

 

 いま(8月下旬)現在、視聴率は下がりっぱなしです。そりゃ制作発表で、僕は視聴率が取れそうな要素は全部省いた、と言いましたよ。ジェットコースターに対抗して今回はメリーゴーランドで行くとも。数字なんて関係ない、自分が見たいドラマを作るだけだって大見得切りました。でもそうは言っても、内心はきっと皆、見てくれるだろうと思っていたんです。それが心意気ってもんじゃないか。それなのに、ふたを開けたら本当に見てくれないんだもん。そりゃないよ、淋しいじゃないか。ただ、フジテレビの石原さんがおっしゃったんです。もっとも理想的なドラマは、作り手がやりたいことをやって、数字も取れるドラマだと。2番目が、数字は取れないけど、やりたいことがやれたドラマ。3番目が、数字は取れたけど、やりたいことができなかったドラマ。最悪なのが、やりたいことができなくて、数字も取れなかったドラマ。そう考えると、『今夜〜』は上から2番目なので何の問題もない、と。いい言葉じゃないですか。そういうわけで、僕は全然、気にしてません。でも、直前のミニ番組『食彩彩』にだけは正直、勝ちたいです

 

 失恋して落ち込んでいる女の子を、励ましている間に、彼女が好きになって…ということはよくありました。大学時代ですよ。結局、彼女は、前の彼氏とよりを戻して、僕が身を引くというのが、お決まりのパターン。確かに耕介(主人公)の言動には、僕の経験が投影されてます。ただ、僕や耕介みたいな恋愛に不器用な人間って、実はたくさんいるんじゃないかって思うんです。むしろドラマに描かれなかっただけで、本当はそっちのほうが多いんじゃないかって。ドラマの主人公って、かっこいい男ばかりですから。そんな奴らが恋に悩んだってリアリティがないんだ。だって周囲を見回してもキムタクみたいな奴、ひとりもいないもん。今回の英語タイトル『Someday,Somewhere(いつかどこかで)』には、そういった意味も含まれています。世界中どこにでも耕介みたいな人間はいるっていうこと。実は撮影中に西村が、外人のエキストラさんに言われたそうなんです。「毎週見テマス。アナタノ気持チ、痛イホドヨクワカリマス」って。それを聞いたとき、このドラマをやってよかったと思いましたね

 

 (悲しいものは書いてみようと思わないのかと問われて)プロ野球選手に、サッカーはやらないのか、と聞くようなものです。僕にとって“笑い”は、こだわりというより、それがすべて。ちょっとかっこよすぎました? 笑うと元気が出るじゃないですか。大事なことだと思うんですよ

 

 笑いに関しては、子供の頃から何でも見てました。『奥様は魔女』から“デン助劇場”。ドリフにゲバゲバ。モンティ・パイソンも見てたし。最近は、どっちかと言えば作り込んだ笑いが好きですね。演者の芸で見せる笑いは、僕ら作家の入り込める余地がないから。最近笑ったのは、松本人志さんのビデオ。スカイダイビングの話なんか、感動すら覚えました

 

 影響を受けているのは、アメリカのシチュエーションコメディー。『ルーシー・ショー』とか、最近で言えば『マーフィー・ブラウン』。演劇では一幕物と言って珍しくないんですけど。テレビでこれをやっているのは、ほかに書ける人がいないと思うから。優秀なスタッフと俳優さんがいるからできることですけど。コメディーは、場面転換があまりないのが効果的。特にセリフのやりとりで進めていくときはね。笑いの鉱脈は、とにかく細かいところに埋まっているから、パッケージはできるだけ単純に。僕の座右の銘は「神々は細部に宿る」です

 

 『今夜〜』の目標は、誰かが病気になったり死んだりレイプされたりしなくても、面白いドラマができるんだってことを証明すること。そのへんはうまくいったと思います。でも、よくフジテレビさんも、こんな企画を通してくれたな。まあ、僕に好きなことをやらせてくれるテレビ局が存在する限り、僕は好きなことをやりつづけるのが義務だと思ってます。ただあんまりマニアックなモノばっかり書いてると、しまいには。怒られるかも知れない。そのときは、潔くテレビの世界を去りますね 

今夜、宇宙の片隅で

今夜、宇宙の片隅で

 

 視聴率低迷を全然気にしていないと強がっているけれども、実はショックだったと、三谷氏はのちに告白していて(『仕事、三谷幸喜の』〈角川文庫〉)、氏は2000年代には連続ドラマのシナリオから撤退していくことになる。だがこの『今夜、宇宙の片隅で』は、三谷作品の中でも最高傑作のひとつだと引用者は思っており、再評価が待たれる。

仕事、三谷幸喜の (角川文庫)

仕事、三谷幸喜の (角川文庫)