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ジェームス三木 × 井土紀州 トークショー レポート・『さらば夏の光よ』(1)

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 かっこいい男(郷ひろみ)と冴えない男(川口厚)。何故か馬の合うふたりは揃ってアルバイト先のバーガー店の店員(秋吉久美子)に恋した。 

 遠藤周作『さらば、夏の光よ』(講談社文庫)を映画化した『さらば夏の光よ』(1976)は波乱の三角関係をビターに描いた佳品。89分という短さながら、二転三転する筋立てと巧みな台詞がプロのしたたかな手腕を感じさせる。

 4月にリバイバル上映が行われ、脚本を担当したジェームス三木氏のトークショーがあった。聞き手は『百年の絶唱』(1998)の監督、『64』(2016)や『溺れるナイフ』(2016)の脚本などで知られる井土紀州氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

三木「いま執行猶予を。失礼しました」

井土「タバコを吸いに。ちなみにいまおいくつですか」

三木「83になりました」

井土「いまもヘビースモーカーで」

三木「タバコ吸うと頭禿げないと聞いたので(一同笑)。それと自殺しないと聞いたので、吸ってるんですが。

 みなさん(観客)お若いですね。これ40年前の映画ですから、ご年配の方が多いかなと思いましたら。シナリオの勉強をしている方たちですか。真面目な話しなきゃいけないのかな」

 

【『さらば夏の光よ』について (1)】

三木「忘れてますね。内容全然思い出せなくて。、1975年ですか。郷ひろみはそのころ20歳過ぎで、もう60過ぎてる。なつかしいですね。

 残念だったのは郷ひろみの頭を何で丸坊主に刈れなかったのか(一同笑)。丸坊主にしたら舞台で歌ったりできなくなるからだけど、そっちをかつらにしなかったのか。一点だけ気になりましたね。

 企画は周防郁雄さんという方。郷ひろみさんのバーニングプロダクションの社長さんで。

 原作は遠藤周作さん、キリスト教で有名な作家ですけど。大きく変えてしまったのは、何で変えたか忘れましたが、原作では南条宏(郷)が死んじゃうんですよ。原作は野呂(川口)が主役で、それが郷ひろみには合わないと思ったんでしょうね。遠藤周作さんとは、このときお目にかかってないんじゃないかな」

井土「原作はまるっきり違います。いい台詞は原作にあったのかなと思ったら、99パーセント違いました。文化学園の3人の学生がいて、南条は京子(秋吉)が好きで、野呂も好きだけど心に秘めてる。南条はアタックして、子どもができて、結婚直前に南条が交通事故で死んでしまう。京子の両親はどうするんだと。できちゃった婚に反撥もあり、ててなしごを産むのかと。そこで遠藤周作的な自己犠牲、献身というか、野呂ちゃんがぼくと結婚しよう、産まれた子に父親が必要だろうと。原作で繰り返し書かれてるのは、野呂はのろまでずんぐりしてて、ルックスがよくない。結婚するけど、京子は死産して絶望して南条の故郷で自殺する。生き残るのは野呂だけで、不細工な自分だが生きようという終わり方ですね」

三木郷ひろみということで、多分南条を主役に変えたんですね。映画自体が落ち目になってる時代ですから、松竹は『男はつらいよ』シリーズぐらいしかなくて。プログラムピクチャーで安く、見るとお金をかけないようにつくってる」

井土「プログラムピクチャーのよさですね。原作を大胆に変えて。再構成されてよくなってると思ったんですが。

 鳥の目が死ぬとき白くなるというエピソードが唯一、原作を使っている部分です。原作での野呂は鳥が好きで、鳥と対話できる。野呂の台詞を映画では秋吉久美子に喋らせて、市ヶ谷の外堀で。その語っている彼女を野呂が好きになってしまう。

 三角関係は恋愛と裏切りを描きがちですが、もてるほうがもてないほうのために…。遠藤周作の真逆ですね。

 ひとつ残念なのは「ひとり欠ければそれでおしまい。私たち3人でひと揃いだったのよ」ってすごい台詞です。山根さん(山根成之監督)は裏で(顔を映さず)言わせてるんですね。台詞が立ちすぎるかなって、だからああしたのか」

三木郷ひろみのスケジュールがあるでしょ。大変だったと思います。台詞が聞き取れないのもありますね。そこまで山根成之が我慢できなかったのかな。野口五郎郷ひろみ西城秀樹新御三家? そんな時代だから、スケジュールは大変だったでしょう」

井土「ここいちばんの芝居場では、セットだと思うんですがふたりで赤ちゃんが動いてくっつかないシーン。シンクロで撮ってて、カメラのモーター音も入ってて、押さえるところはアフレコじゃなくてシンクロでやるとか。郷ひろみの映画ですから、秋吉久美子より美しく撮ってるというか。郷が輝いて、秋吉久美子が地味に見える (つづく

 

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