私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

大海赫 × 松井周 トークショー レポート・『ビビを見た!』(2)

松井「文章を書かれてから絵を思いつくんでしょうか」

大海「頭の中にイメージが湧いてくる。それを筆記するだけで間に合わない。考えてる暇がないです」

松井「絵のほうに文字が書いてあることもありますよね。『ビビを見た!』(復刊ドットコム)に特急コガラシ号というのが出てきますけど、絵に走れいもむしって文字が書いてあります。でもいもむしって表現は文章の中には出てこないですね。思いついたら書くということなんですね」

大海「そうですね。電車って遅いなあとよく思う気持ちが、いもむしになったんですね(笑)。もっと速くてもいいのになと思っちゃう」

松井「舞台化で悩んだのはいくつかあって、先生の絵のイメージが強烈ですから、絵をプロジェクターで映し出そうかなとか寛が短ですが、それは負けた気がして。何とか違う形で翻訳して舞台にしようと。人間じゃないものも出てくるので、どう表現しようかといまも悩んでいます」

大海「ほんと? 悩んじゃダメですよ。ぼくは喜劇が好きですね。劇作家でもいちばん好きなのはモリエールですね。シェイクスピアよりモリエールチャップリンも好きで、チャップリンの映画を見てても悩んでませんよ。どんどんドラマが進んでく」

松井「大海先生の描かれる世界は、残酷だったり怖かったりしますけど、笑えますね」

大海「日本人っていうのは、ここにいらっしゃる人たちみたいにみんな深刻な顔してるんですよ。もっと不真面目になればいいのに、みんな真面目くさって(一同笑)」

松井「不真面目になるのも難しいですよね」

大海「そんなこと考えてるから(一同笑)」

松井「それでも世の中に不満はあるんですね」

大海「ああ、不満だらけですよ」

松井「版画では額縁のある絵を描かれることもありますよね」

大海「ぼく、いまあの世のこと考えてんですよ。過去を振り返っちゃダメなんですよ。人間は歳とればとるほど過去のほうばっかり向くんですよ。ああすりゃよかったとかね。ぼくは後ろ向いても面白くも何ともないですからね。ぼくの過去なんて面白くないから、前ばっかり見る。ぼくはもう88で前ないでしょ。死んだ後があるんですよ。死んだ後も未来なんですよ。遊園地つくってプロデューサーになろうと思ってるんですよ。真面目によ! いまのジェットコースターみたいな、ださい遊具じゃないものつくって、みんなと遊びたいなって考えてるんですよ。この世のことなんて考えてない(笑)」

松井「大海先生の頭の中は想像できないんですが、それは本を書きたいということではなくて」

大海「本なんてものは、考えた後に自然にできちゃう。本つくろうと思ってやってるわけじゃない。作品描くと、誰かがやって来て本になる。できちゃうんですよ。いいもの描けば本なんかできちゃう。思い浮かぶのは断片で、それをつなぎ合わせるんですよ。時間をかけて断片をつくって、つなぎ合わせる。最初はふわっとしたものですね。それが形になってくんですよ。

 遊園地のことは、いま一生懸命考えてる最中」

松井「作品をつくるときには大海先生の本を読ませていただいて。『ドコカの国へようこそ』(復刊ドットコム)とか。ドコカの国をつくればいいのかと、説得力を考えないで、自分の思ったことを形にしてしまうというのに励まされます」

大海「『ドコカの国へようこそ』なんていうのは、ずばりですね。みなさんも思いませんか。こんなところにいたくないですよ。満員電車とか」 

松井「それでも電車に乗って生活をせざるを得ないところもあって、それで本を読むときは自由になるわけですが」

大海「このごろの電車はいいほうですよ。戦争直後の電車なんて、ガラスに張りついてましたからね(笑)。人がいっぱいで」

松井「そういう若いころ、戦争などの記憶が作品に影響しているということはありますか」

大海「影響はないな! ほとんどないですね。学校から帰るとき、空襲警報が鳴っちゃったんですよ。急いで帰る途中に降ってくるんですよ、爆弾が(笑)。それで地下壕で小さくなっていた記憶もあります」

松井「そういう影響が絵本に出ているような気がぼくはしていたんですが。ご自身では意識はないと」

大海「そういう絵本を描く気はないですね」

松井「日本の現実に基づいた作品はあまりないですよね」

大海「人が笑っちゃうような本のほうがいいですね。人を怖がらせるのも面白い」(つづく