
【ヤジ排除問題】
是枝「このヤジは、定時のニュースで知った案件ですか」
山﨑「そうですね。2019年は私が、ニュースの統括編集長という責任者だった時代です。反対する人がいなかったので私も好き勝手できたんですけど(笑)、取材してたのが長沢で、3分のニュースだったり10分の特集だったり継続して取材していった。
ヤジが排除される映像を見てロシアや中国と同じだとびっくりしたんですけど、自分の隣でヤジを飛ばされたらどうなんだ。演説を聞きたいのに大声出されて、自分も迷惑だと思っちゃう。自分の感情と権利を守ることとをどう認識していいか判らなかった。専門家に取材することで法的な裏づけとか聞いて。あと岸田(岸田文雄)総理が来たときにトランスジェンダーのカップルがプラカードを掲げているのを見て、そういう人の存在を守るためにもヤジを守ることが大事だと逆に教えてもらったんですね」
是枝「それぞれ(のニュース映像)を1本にまとめたわけですけど最初は60分ですか」
山﨑「最初は30分でしたね」
是枝「長編にできると思ったポイントはどこですか」
山﨑「生活図画事件で弾圧を受けた菱谷良一さん、映画には入っていないんですが同じ2019年の11月に札幌で展覧会をやったんですね。生活図画事件で生き残っているのが菱谷さんと松本五郎さんのふたりだけで、戦後初めてふたりの個展をやると。生活図画事件はヤジ排除問題と関係なくHBCが長年追っかけてたテーマで、だから取材したんですけど。治安維持法も最初にできた法律と運用が変わって、権力の暴走がどんどん加速していった。ヤジ排除問題の起きたのと治安維持法で弾圧された人が展覧会をするのとが同じ年ってどういうことだろう。ヤジ排除問題を放置した先にある未来が、過去に目を向けたらあるんじゃないかとつながったんですね。
ほんとは全国放送したかったんですけど、企画提案しても通らなくて。HBCはお金がなくて、TBSに30分のドキュメンタリーで『ザ・フォーカス』というのがあって、佐古(佐古忠彦)さんっていう『ニュース23』もやられた方がプロデューサーで、相談したら関東ローカルだけどやろうって言ってくれて翌年(2020年)の2月に30分番組で放送したんですね。
北海道でも放送して、その2日後に北海道警察が排除は適法だと議会で発表して、これは続編をやろうと思って追加取材をして4月に46分で放送しました」
是枝「縦軸で追いかけることの難しさと面白さがドキュメンタリーにありますね。この作品に関してはあのふたりが、この戦いを通していろんなことを学んでいきますね。見てる私たちもあのふたりに寄り添いながら、周辺にも自分の視野を広がっていく感覚がある。ぼくがこの作品を好きな理由なんですけど」
山﨑「あのおふたりはテレビのニュースだと変わった人とか特殊な人とかって見られ方をされがちなんですけど、そうでないふたりをきちんと描こうと思ったんですけど。
何かおかしいと思っても、やめようと言えなくて、でも近くにいるっていう人がいて。ぼくらはそっち側に近いのかな。ふたりはマスコミや警察から無視されても、でも市民は無視してなくて、映像を提供してくれた方もたくさんいて。ふたりに影響されて声を上げたり、共鳴して声が広がっていく感覚を取材してまさしくリアルで持ちました。ぼくらが目撃したものを伝えようと思いました」
是枝「ニュース番組だと落ちちゃうところですよね。影響された方が立ち上がるというか、自分があの場で声を上げられなかったことを反省して、覚悟を持って番組に出てくれたのが、この作品にとってもすごく大きいし、ヤジ問題にとっても重要ですね。山﨑さんは怒りに任せて批判するだけでなく、この戦いは負けいくさ的な側面も出てきているのと思いますが、その中でも獲得できるものがあるのだとフォーカスしているのがとても素敵だなと」
山﨑「最高裁の判断が出ていない中でよくつくったねって言われるんですけど、ぼくはだからこそつくるべきかと。すべて終わった後に実はこうでしたって言っても後の祭りですし、現在進行形で起きていることをみんなで考えようと。最終的にいいか悪いかは歴史が判断するかもしれませんけど、いま起きていることを考えるのが大事かなと思っています」
【いまの報道】
山﨑「世帯視聴率から個人視聴率へと調査方法が変わってから、報道も変わりましたね。以前はテレビが置いてある世代をカウントしてたんですけど、男性女性の何歳代が見ているかを測るようになったんですね。毎分ごとに世代ごとの上がり下りがある。時代劇が地上波から消えたのは、お年寄りばかり見ていると、いくら広告を流してもお年寄りは物を買わないから広告主がつかないから。ニュースもその波に逆らえなくて、どうしてもF2(20代後半から30代前半の女性)が関心を持ちそうなニュースを選んで放送する局が増えて。HBCは民放の中では踏ん張っていろんなこと扱っているほうだと思いますけど、それでも毎朝の会議でニュースは視聴率をとれたのかという厳しい話はありますね。だからと言ってやるなということにはならなくて、つくり方を丁寧にしようとか。
きのうの夕方のニュースで杉田水脈議員のアイヌ民族に対するヘイトを10分の特集でやったんです。そんなことを10分もやる民放はうちらぐらいですよ(笑)。けど視聴率は良かったんですよ。つまり自分たちが大事だと思って伝えたものは見てもらえる。狙うと逆に視聴率を取れなかったりする。地方局として伝えなきゃいけないことと視聴率と、日々戦いながら踏ん張っていかなきゃいけない。
私は特集担当のデスクをしてまして、年に何本かはドキュメンタリー番組のプロデューサーをしています」
是枝「東海テレビの阿武野(阿武野勝彦)さんの陣頭指揮のもとにつくられたドキュメンタリーはとても印象的で、もちろん阿武野さんひとりの力ではないかもしれませんけれども。地方局で面白いものをつくっている局には必ずひとり核というか軸になるプロデューサーがいて、若手がのびのびつくれる。阿武野さんに呼ばれて東海テレビにも勉強会に行ったことがあるんですが、(HBCも)山﨑さん中心にそうなっているのではと明るい気持ちになったんですが、そんなに明るい感じでもないですか(一同笑)」
山﨑「是枝さんはテレビは声が大きい者の拡声器になってはいけない、小さな声に耳を澄まさなきゃいけないというようなことをツイートされていて、ぼくはその言葉が大好きで」
是枝「(笑)」(つづく)

