私の中の見えない炎

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大森寿美男 × 山崎秀満 × 三沢和子 × 宇多丸 トークショー レポート・『黒い家』(3)

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【美術と制作現場 (1)】

 美術の山崎秀満氏は『黒い家』(1999)が初顔合わせ。その後にも『阿修羅のごとく』(2003)、『間宮兄弟』(2006)、『サウスバウンド』(2007)などの森田芳光作品に参加している。

 

山崎「何故ぼくに話が来たのかなと思いましたね。森田組は助手から上がって段階を経てメインスタッフになるという形が多かったんですが、ぼくは助手時代に森田組につくことができなかったので」

三沢「『39 刑法第三十九条』(1999)と『黒い家』とでメインスタッフは代わってるんですね。森田はがらっと違うものにしたいというのがあって」

山崎「原作読んで、森田さんの事務所に行く時点で菰田家のセットの図面をだいたい描いていました。京都のつもりで描いてました。京町家っていう京都独特のつくりがありますよね。それでプランニングしてたんですが。ただ金沢も小京都と言われるくらいですからね。

 ロケハンのときには(家の外観として)真面目にほんとに黒い家をさがしてたんですが(笑)監督は「もっと普通の家でいいんだ」。あの家は(川やガスタンクなどの条件を)すべて兼ね備えてました」

大森「脚本にガスタンクは入ってないですけど、シナハンでこういうところで撮りたいとは言われていて地名も書いてました」

山崎「(セットは)玄関の表から全部つくり込んでいます」

宇多丸「幸子のテーマカラーは黄色ですが、冒頭から細かいところに黄色が入ってる。事務所のちょっとしたテープや灰皿まで」

山崎「(監督の指定は)なかったんですけど美術部で話し合って関連づけていこうと。幸子は黄色で西村(西村まさ彦)さんの夫は緑と最初から決まってたんですが。監督も喜んでくれましたね。

 ただプレッシャーの中でやってました。終わるまではドキドキしてました。ぼくは打ち合わせやプレゼンなどは上手くないほうで、まず助監督と話して、それから監督と打ち合わせしていました。

 菰田家のふすまも黄色で、狙いでやってます。」

宇多丸「ここも!ってところも黄色ですね。小学校の先生が話してるシーンにあるタイヤの遊具も黄色です」

山崎「監督に判らないように仕込んでいます(一同笑)。最終的には気づいてくれるんですが。変なものがあると、見る人も目が行っちゃうので気をつけました。

 セットは平面のプランとミニチュアとを用意して打ち合わせをしてました。セットではお香を焚いてました。そういう家だったら何かあるだろうということで匂い消しのイメージです。映像では判りませんけど、監督は「ここまでやってくれたの」と感激してくれましたね。

 監督には全体にそぐわない感じにしてくれということで、ミスマッチな感じのシャンデリアとか」

宇多丸「犬の置物とか愛犬家殺人事件を思わせます。あんなことしてるのに趣味が妙にファンシー。何と言っても素晴らしいヴァイブレータは…」

大森「脚本にはないです」

山崎「金沢のロケで若槻のマンションを撮っているときに、監督に「セットで音が出るものがほしいんだよ」と言われまして。最初は何か判らなかったんですが(一同笑)。装飾さんと話してあれしかないだろう」

宇多丸「彼らが侵入したことに気づく仕掛けとして音が鳴るものですから、サスペンス的なものと幸子のキャラクターとが一致してのヴァイブレータですね。チョイスされたのは美術さんで、色も大きさも絶妙ですね(一同笑)」

山崎「菰田家で小林薫さんが殺された後に床下に入ってる。撮影所なんでセットを掘り返したりできないんですが、セットの高低差をつけています。映像では判らないかもしれませんが20cmくらいの段差をつけて高くつくってます」

宇多丸「ボーリングの練習を廊下でしてるっぽいですね」

山崎「セットの準備をしてるときに廊下に電飾の影が映って、監督が「これボーリングできるじゃないか」って。そこでボーリング場のレーンにあるスパッツをつけて」(つづく