■ 三島由起夫の「美しい星」を、 おバカ映画として撮りたいね!!
『ギララの逆襲』(『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』〈2008〉)は、興行的には不成功だったが、ベネチア映画祭に招待された。その功績を河崎監督は「こんなヤツ、他にいないでしょ?」と強調するが、果たして彼は、そのことを本当に納得しているのだろうか?
かつて怪獣映画をディープに愛した、この日本の観客たちが、今、怪獣映画には見向きもしない。それなのにベネチア映画祭では、否コンペ部門(ミッドナイト・シネマ部門)とはいえ、『ギララの逆襲』を上映した。国内での失敗と海外からの注目。そのアンビバレンツな現実に、今後河崎実はどう立ち向かっていくのだろうか?
——今、私の周辺でも特撮映画やりたいってプロデューサーや監督って多いんですよ。
河崎 うーん。オレは特撮バカっていうか、ウィリアム・キャッスルみたいに、色々含めてのバカだから。映画作るだけじゃなくて、宣伝とかも含めてやってるから。普通そうじゃないでしょ、監督って。映画撮って、あとはプロデューサーがオロオロしてるだけ。そういうこと、一切ないですから。
この枠しかないから、これでやっちゃえー!!って。だから他の監督とは、違うリスクを背負ってやってますよ。こっちはもう、1日撮影伸びただけで、100万円出ていったりしますからね。
——そのあたりは、プロデューサー的感覚。
河崎 もう特撮ファンだけ喜んでるものは、やりたくないんですよ。たけし(ビートたけし)だとかザ・ニュースペーパーだとか、特撮ファンを超えてるでしょ。一般に向けてやったわけだから。
——狭いのはダメですね。
河崎 逆に狭かったほうが良かったな、とも思いますが(笑)。
——結局リバートップは事務所的に潤ったんですか?
河崎 いやあ、『沈没』(『日本以外全部沈没』)の儲けをギララではき出しましたよ。DVDで戻ってこないと。
——『猫ラーメン大将』に続く次回作は?
河崎 いや、ちょっと今、女とも別れて…。
——よくやりますね。映画作りながら(笑)。
河崎 深く進行中なんですけど、困ってるんですよ。プレゼンでしたらいくらでも出来ますけど。今、日本映画で三池(三池崇史)さんと堤(堤幸彦)さん、佐々部(佐々部清)さんしか撮ってないじゃないですか。
——河崎監督だって、撮ってるじゃないですか、たくさん。
河崎 いや、オレは1億円行ってない作品ばっかだし。
——でも自由に撮ってるじゃないですか。それはみんな、うらやましいと思ってますよ。
河崎 それはいつかも書いてもらいましたけど。
——何が楽しいんですか、委員会にがんじがらめにされて。企画から何から決められて、そんな中で撮って。
河崎 マーケット・リサーチして「これが受ける」って言ったら、もう自明の理ですから、しょうがないですよ。
——そういう話が来たらどうしますか? いわゆる製作委員会で、10億円の予算があって、「委員会の言う通りにやってください」って話が来たら。
河崎 来ないもん、まず。
——もし来たら?
河崎 やるんじゃないですか。つまり自分の誇りを捨ててまでやるかっていったら、そこが問題であって。
——怪獣映画だったらやりますか?
河崎 やるね(きっぱり)。
——先日の読売新聞のインタヴューで、「三島由紀夫の『美しい星』を映画化したい」と言ってたでしょ?
河崎 アメリカでインタヴュー受けても、みんな三島由紀夫って言うと食いつくし。そりゃもう、「美しい星」やりたいんだけど。
——それは、おバカ映画として(笑)?
河崎 宇宙人全員、縫いぐるみ(笑)。5000万円あれば余裕で出来ますよ。
——三島原作なら、河崎監督で「潮騒」やって欲しい。かぶり物満載(笑)。
河崎 久保明ね(笑)。タイトルがいいでしょ、「美しい星」って。実相寺(実相寺昭雄)監督がやりたかったんですよ。結局「美しい星」って『ウルトラセブン』の「狙われた街」なんですよ。三島+河崎+宇宙人ものといえば、みんな買いますから(笑)。
現実的に「美しい星」が河崎監督の手で映画化する可能性は、現在のところ決して高くはないだろう。しかし行動力抜群の彼のことだ。あれよあれよという間に、関係者を説得して、実現させてしまうかもしれない。そのバイタリティこそが、この男の真骨頂だ。
侮るなかれ、河崎実。
以上、斉藤守彦氏のサイトより引用。
このインタビューのころは受難の時期だったと河崎監督は述懐する。
「ところが2008年『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』を撮ったあとから、運を使いきっちゃったのかね。急激に下り坂になっていった。
『ギララ』は7月に公開して、正直、数字的にはコケた。プライベートでも女子と別れたりして、どんどんヘコんでいく。9月にヴェネチア映画祭に招待されたのが最後の輝きかな」(『河崎実監督の絶対やせる爆笑痛快人生読本』〈山中企画出版部〉)
やがて河崎氏は復活を遂げて『大怪獣モノ』(2016)、『三大怪獣グルメ』(2020)、『遊星王子2021』(2021)などコンスタントに撮りつづけている。