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寺脇研 ブログ “人生タノシミスト”(2008)(1)

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 元文部官僚で、教育評論家・映画評論家としても活動する寺脇研。近年は映画『戦争と一人の女』(2013)や『子どもたちをよろしく』(2020)のプロデュースも手がけている。

 その寺脇のブログの2008年分が筆者の手元に残っていたので、以下に引用したい。ブログは既になくなっており、この年以外の分は何故か残していない。読み返すと2010年代もレトロな時代になってきていることが判る。

 

 2008/1/23 日大芸術学部

 日大芸術学部の大学院博士課程で映画について論じることがあります。

 博士課程ですから、学生は二十代後半から三十代。留学生の中には四十代もいます。そう、韓国、中国からの留学生が、わたしの話を聞きに集まってくれるのです。ゼミ形式なので学生の人数は少なく、だいたい6~7人ですが、そのうち半分近くを留学生が占めることも多々あります。
午後1時から4時まで教室で話をした後、江古田駅南口にある居酒屋「お志ど里(おしどり)」に場所を移して遅くまで議論は続きます。こうした時間は、学生にとって刺激的なようですが、わたしにとっても楽しく面白いものがあります。

 大学の講義などというと堅苦しいイメージがあるかもしれません。たしかに真面目な授業も必要です。しかし、大学院それも博士課程となると、学生もそれなりに知識や経験を持っています。教室での話の他に、呑みながらの映画談義、文化談義も悪くないと思っています。韓国や中国の学生から母国の社会状況や映画状況を聞くのは、わたしの大きな情報源でもあります。教室ではわたしが教える立場ですが、酒場では教えられることも少なくありません。互いに学習する場といっていいでしょう。

 「お志ど里」は、大学街ならではの安くて美味しい店です。150人くらいは入れそうな広い店内には壁一面にメニューが張り巡らされ、何を頼むか迷ってしまうように品数がたくさんあります。店内を見回せば、学生や先生方の姿があそこにもここにも。

 わたしの授業には映画人の皆さんがゲストで訪ねて来てくれるのも特徴です。最近では、澤井信一郎監督、かわなかのぶひろ監督が来てくれました。澤井さんはわたしが最も敬愛する劇映画の監督、かわなかさんは最も敬愛する実験映画の監督です。もちろん、「お志ど里」にもご一緒していただきました。

 この間など、かわなか監督を囲んで呑んでいると、澤井監督が脚本家の中島丈博さんと共に現れ、場所はさらに新宿ゴールデン街へと移って映画談義は夜遅くまで続いたのでした。そうした中から、多くの映画人にインタビューし、細密な調査を重ねた牛田あや美さんの労作「ATG映画+新宿 都市空間のなかの映画たち! 」(発行元・D文学研究会)が生まれました。博士論文をもとにまとめられたものです。映画研究は、人と人とのつながりの中からも豊かな成果を生むのです。
  

ATG映画+新宿―都市空間のなかの映画たち!

ATG映画+新宿―都市空間のなかの映画たち!

 2008/2/12 とにかく映画を観よう

 去年は約270本の映画を観ましたが、今年は300本を目指しています。月に25本ペースですね。とりあえず1月は25本をクリアーしました。映画における今年のわたしのテーマは「映画を観よう!」なのです。京都造形芸術大学の映画の授業でも、学生たちにとにかく映画を観なさい、と勧めています。

 映画学科の学生でも、あまり映画を観ていない。これでは困ります。映画を作る人になりたい、あるいは映画に出る人になりたいと思っている学生たちなのですから、何をおいても映画を観なくては。映画館に行くのが時間的、あるいは経済的にたいへんなんだったら、ビデオやDVDを借りてきてもいい。何でもいいから、とにかく映画を観てほしいのです。映画を観るのは、「百利あって一害なし」と学生には教えています。

 すばらしい映画、面白い映画を観れば自分にプラスなのはもちろん、くだらない映画、つまらない映画だったとしても、なぜくだらないのか、なぜつまらないのかを考えれば、映画を観る力はついていくし、映画を作る力もついてきます。

 自分は映画の専門家になるつもりはない、という皆さんだって、たくさんの映画を観れば人生が豊かになるし、ものの見方や考え方が深まりますよ。 …とけしかけるからには、当のわたしがたくさんの映画を観なければ説得力がないでしょう。300本も観ろとは言いません。去年10本観た人は15本、30本だった人は40本、それくらいで構いません。どんな映画でもいいんですから。

 わたしの最近のお薦めは、『チーム・バチスタの栄光』。ベストセラーになったミステリーの映画化ですが、映画の面白さもなかなかのものです。多彩な登場人物の描き分けを楽しんでください。

 『アメリカン・ギャングスター』も充実感のある作品です。薬物が蔓延し行政機構が腐敗した1960年代から70年代にかけてのアメリカ社会を、骨太に再現しています。意外な拾い物だったのが『東京少年』。「ネタバレ」になってしまうので詳しくは書けませんが、今までになかった新しい形での愛の葛藤が扱われていて、ちょっと面白い映画です。 

アメリカン・ギャングスター (吹替版)

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 2008/2/26 映画のハシゴと番組収録

 2月某日日曜

 MOVIXシネマ京都で映画を3本ハシゴしました。『結婚しようよ』『奈緒子』『L change the WorLd』。断然すばらしいのは『奈緒子』です。高校生の女の子、男の子のひたむきな感情が鮮やかに切り取られています。駅伝場面の疾走感といい、静かに示される友情の熱さといい、映画の醍醐味でいっぱいです。断言します。これは必見の一作。

 ちなみに最新の映画では、他に『エリザベス ゴールデン・エイジ』がお薦めです。イギリス女王エリザベス世の黄金時代を描いていて、当時の新興国イギリスが旧勢力の代表である大国スペインを凌いで若々しく繁栄していく様子が伝わってきます。女王という地位を自分の天職である「仕事」と考えて行動するエリザベスの、今で言うならキャリア・ウーマン的生き方が魅力的です。

 2月某日月曜

 京都三条ラジオ・カフェの番組「京都寺子屋BUNKA塾」の収録。ゲストは京都発の情報誌「Leaf」を5万部発行の人気雑誌に育てた社長の中西真也さん。早く世の中で仕事をしたくて高校卒業と同時にリクルートに入社、十年後に独立して起業した生き方を、アシスタントの女子大生たちと一緒にインタビューしました。今春就職を控えている4回生、就職活動中の3回生、どちらにとっても刺激的な話だったようです。

 その後、今春卒業して大手化粧品メーカーの総合職になるアシスタントを囲んで塾生座談会。そのまま、スタジオの向かいにある老舗牛肉料理屋「三嶋亭」ですき焼き昼食会。塾生たちが現在在学中の大学を選んだ理由を、偏差値でも京都だからでもなくて「自分の学びたいことを教えてくれる学科があったから」と異口同音に言うのを頼もしいと思いました。今の大学生は… なんて軽々しく威張るなよ、大人たち。

 2月某日火曜

 TBSテレビ「みのもんたの朝ズバッ!」のコメンテーター出演の日。朝5時半から8時半まで番組の後、出版社との打ち合わせが2件。午後から紀伊國屋サザンシアター井上ひさし作のこまつ座公演「人間合格」を観ました。太宰治を主人公に、戦前から戦中、戦後の人生を描く傑作喜劇です。太宰とその仲間たちは、「人間失格」だったのか、「合格」だったのか、深く考えさせられました。

 夕方、三田の綱町三井倶楽部で開かれる三枝成章さんの紫綬褒章受章を祝う会に顔を出した後、神楽坂で新聞記者さんたちとの飲み会。文部省時代に一緒だった教育担当の記者たちと、昨今の教育政策と教育報道について大いに議論しました。(つづく)

 以上、ブログ “人生タノシミスト”より引用。

 

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