【創作について(2)】
なべ「最近フランク・キャプラのあらゆる映画を、繰り返し見てるんです。この人がアカデミーの監督賞や作品賞を3回も取れたのは、ロバート・リスキンという脚本家がいたからで『一日だけの淑女』(1933)で知り合って、もっとしっかりした作品を撮りたいと言ったんだろうけど、それから『或る夜の出来事』(1934)とか名作をつくるんですね。キャプラの映画を見てると、テーマがものすごくちっちゃい。先生の映画を見ていても、ちっちゃい種を発見します。『家族』(1970)を見ても、親が年老いて子どもに面倒見てもらいたくて訪ねていくと、こんな狭い部屋で引き取れるわけないじゃない?って話しているのが聞こえてしまう。種は小さい。そこに物語が後からついてくる。脚本を志している人は、大きなテーマなんかいりません。ちっぽけな種を見つけて物語を膨らませればいい。種から木が芽を出す」
山田「小さな物語でいいんだよ。その後ろに、見ている人は巨大なドラマを感じる」
なべ「先生はフランク・キャプラやロバート・リスキンになろうとしているとされて、なったんだなと思います。当時彼のつくるのは甘ったれた映画だって“キャプラ・コーン”ってバカにされたんですね。シネコンに入ると入り口でキャラメルコーンのにおいがする。キャラメルコーンのことを言ってたんだと。戦争が終わった直後、キャプラは甘ったれた喜劇ってバカにされている情況で。喜劇は先生なんかが頑張ってくれて高い水準になっているのに、制作者側が軽く見ているのが残念ですね」
山田「いちばん難しいのにね、喜劇は」
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山田監督は『ゼロの焦点』(1961)、『砂の器』(1974)などで橋本忍と共同脚本を手がけた。
山田「ぼくも橋本さんの脚本づくりに助手のようにしてついたとき、それまでに野村芳太郎さんの下で何本も書いて(脚本:山田洋次という)タイトルも出てたんだけど、いっしょに仕事した松竹系の脚本家も何人もいたんだけど、橋本さんを見ていちばん感じたのは“プロだな!”ってことですね。もちろん松竹の脚本家もいいところがあるんだけど、橋本さんには衝撃を感じました。まず構成を立てるときにさまざま苦心があるわけですけど、ぼくは勉強になったと思ってますね。箱書きをしっかり立てて、書き始める。黒澤(黒澤明)監督なんかだと“おれは構成なんか立てるか”って言ってたけども。いきなり書き出すんだって。でもぼくは、黒澤さんの頭の中では緻密なコンピューターみたいに組み立てられているんだろうと思いますね。ただ書かないだけで」
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山田「いい脚本、キャスティング、スタッフが揃えば8割方映画は成功してるって言いますよね。それをぼくも信じたいけれども、安心したら失敗しますね。このシーンはうまくいかないからどういうふうに見せてやるかってことで苦心惨憺したシーンのほうが、後で見ると力がある。安心して撮影したシーンは、見ると気が抜けていて力がない。だから安心しちゃいけないのね。
何かに触発されて創造力を発揮するという仕事ですよね。触発される素材が必要で、事件だとか人間だとかですけど。触発されることが大事であって、ぱっとひらめくような空想とは違う。空想的になると物語がふわふわしてしまう。見ていてそういうことってあるかもしれないなっていう、奇妙奇天烈な物語であれ、近未来であれ、大昔の話であれ、あるかもしれないってのがあるから笑ったり感動したりできるわけで、単なる空想になってはいけないと」
2019年末に、22年ぶりのシリーズ新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公開予定。
山田「いま編集の段階です。5年も10年も前から考えてたんですけど、いままでの(特別編を含め)49本もあって、全部見るのに2日も3日もかかる材料があって。27年目に渥美さん亡くなったけど、27年分の俳優さんの人生が詰まってるわけですね。膨大なフィルムから選び出していくと、寅さんはいなくなったけど周辺の人たちがいまでも生きてて、何かにつけて自分たちの若き日を思い出すという形で家族の50年の歴史を構築してみる。そんなことができるんじゃないかって何年も前から考えてました。デジタルの時代になって、昔のプリントを4Kデジタルリマスターすると、50年前の映像がまるでニュープリントのように鮮明になる。いま撮影中の映像とカットバックしても、何の遜色もない。そういう条件もあってこれだったらできるかな。いま生きているさくら(倍賞千恵子)さん、さくらの夫の博(前田吟)、息子(吉岡秀隆)ももう50近いけど、現在の悩みにぶつかっていくというのを中心にしてつくってみたんです。
さくらと博さんも70をはるかに過ぎたけど、結婚したときのシーンは、50年前のふたりがちゃんと出るんですね。そういうのは世界の映画の歴史でもなかったんじゃないかな。トリュフォー(フランソワ・トリュフォー)が『大人は判ってくれない』(1960)の少年が成長していくのを(連作で)撮影していくというのはあったけど、ぼくのはなんせ50年(笑)」
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