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大森一樹 インタビュー “電車が生んだ独自の文化”(2006)

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 出身地の関西を舞台に、自伝的な『ヒポクラテスたち』(1980)や村上春樹原作『風の歌を聴け』(1981)などを撮ってきた大森一樹監督。

 その大森氏が地元・兵庫の風景について話している2006年9月のインタビューを以下に引用したい。ちなみに文中では「毎年新作を発表」とあるが、この少し前から氏は80〜90年代のようにハイペースでは撮っていない。

 

 職業だけ考えれば、機能が集中している東京にいたほうが何かとやりやすい。「まっ、ぎりぎりで何とかなってるわ」と言いながら芦屋市に住み続けている大森一樹監督。毎年新作を発表しながら、大学で後進の指導にあたり、30日(土)から始まる「のじぎく兵庫国体」の式典総合プロデューサーも務める多忙さ。愛する地域について語ってください。

 

育った土地に愛着がある

「何で東京に住まないか。インタビューで毎回、同じことばっかり聞かれるね。昔は東京は地震があるから怖い、と思って行きませんでした。阪神・淡路大震災があって、関西も怖いところだとわかったけれど、離れないのは育ってきた土地に他にはない文化があるし、愛着があるからです。街の持つ特性やニュアンスを肌で感じながら生活しています」

 

——街のニュアンスとは?

 

「例えば学校文化。神戸女学院、甲南女子、関西学院、灘などの私立学校が集中していて私立学校が生む文化があります。最近はそうでもないかもしれないけれど、僕たちの時代は制服を着ていなくても、見ただけで通っている学校がわかるような強烈なカラーで分別されていました。「何となくわかる」という感じかな。村上春樹さんの小説の行間に隠れている「村上さんがどこらへんに住んでいた」という事実が「何となくわかる」といった感覚に似ています」 

豊かさを感じながら楽しんで生きる

——独特の文化を生んだ源は?

 

「六甲山があり、市民が憩う夙川や芦屋川があり、すぐ海もある。そこを走る電鉄が競争しながら生まれてきた生活や文化がある。なんと豊かなことか。芦屋には阪神、JR、阪急と三つの駅があって、その周辺地域にはそれぞれの文化がある。それぞれが歩いて行ける距離にあるのに、微妙に雰囲気が違うんですね。住民の意識に温度差があるのです」

 

——どのような温度差があるのですか?

 

「僕は阪神電鉄を利用していますが、阪急駅周辺には長らく行ったことがありません。阪神駅周辺をうろうろしています。阪神と阪急では沿線の雰囲気や乗客や風景などのテイストが全然違います。阪神電車に、阪神タイガースのユニホームやらハッピやら着て、鉢巻きしたエエ年した大人が集団で乗ってきても違和感ないでしょ。気負ってもいない。風物詩になってるからね。これは、ホンマにおもしろい。狭い土地に集まる電鉄が沿線に特徴的な文化をそれぞれ生んでいるところなんてありませんよ、他には」

 

街の風景や人の生活が変わる?

——阪神電鉄阪急ホールディングス経営統合されることになりましたが。

 

「例えば、あの小豆色の阪急電車が走る阪神沿線の風景を想像しただけでも、ものすごく違和感があるでしょ。あるべき風景や街に漂う空気といった文化の根本が崩れてしまうのではないか、という危機感すら感じます。どうなるんやろね。住民としても利用客としても、その方向性をちゃんと見届けなければいけないと思うね」

 以上、「朝日ファミリー」1401号(2006年9月15日)より引用。  

 

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