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三沢和子 × 宇多丸 トークショー “2018年の森田芳光” レポート・『39 刑法第三十九条』(4)

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【『39』の森田演出】

宇多丸「(『39 刑法第三十九条』〈1999〉の)ごはんの量で(吉田日出子さんの)具合悪そうなのが判りますね。普通のお母さんとして演出することもできるのに。

 『失楽園』(1997)からの同一画角の繰りかえしで、こういう使い方も発明ですね。咀嚼音を際立てるのも『家族ゲーム』(1983)以来ですけど、いままできたなく聞こえないように工夫してたのに「きたない音立てないで」って初めて台詞で言いますから、踏み込んだなと(笑)。こっから先の食べものの音演出はどうなるか」

三沢「順番に見ると面白いですね(笑)」

宇多丸「文字の演出も意図的にやられてますね。条文の活字が非人間的で硬いのに対して、万年筆の筆跡は効いてますね」

三沢「あれは京香(鈴木京香)さんの字ですね」

宇多丸「校庭にボールが幾何学的に置いてあるのがアラン・レネっぽい」

三沢「××っぽいって言われるの森田は嫌がる(笑)。記憶力がないから、見た映画のストーリー忘れるし。擁護するわけじゃないけど、画とか音とか自分の中に入っていて自然に出てきちゃう。

 森田的には旅ができて、鉄道もあるので嬉しかったみたい。新潟、犬山、岐阜、門司港とか。実景は全部終わってから撮るんですけど、広島あたりで雨が降って遭難しそうに。事務所の戻ってきたとき、女物のブラウスとパンツ着てて、他の洋服が全部びしょびしょだったんですね(笑)」

宇多丸「今回見直して、ミステリー的なねたばらしを早い段階でしていますね。サプライズよりも心情的な。妹の死体を見つけるところ、あの足の方向とか(笑)。直接残虐な画ではないのに、あれは…。慟哭のさせ方、『ときめきに死す』(1984)もそうですけどうまいですね」

三沢「子どもの手がふるえるから、堤(堤真一)さんもそうですから、あそこでも判りますね。堤さんは、手をふるわせるのがかなりつらかったみたいですね。

 

【クライマックスの撮影】

宇多丸「クライマックスの(法廷の)シーンでカメラがダイナミックに寄っていきます」

沖村「勢いをつけてカメラを突っ込みたいということで、クレーンでは勢いがないので、滑車で吊ってやりました。上から降ってきたいということで、セットの端にイントレを組んで、ロープを渡して、上に滑車を吊ってひゅーっと滑らしました。カメラが近づいてきたら、俳優さんには当たらないように、走って行ってキャッチして止める。鈴木さんには死ぬ気で止めますから安心してくださいと(一同笑)」

宇多丸「観客は目が慣れちゃってて、ステディイカムとか言っちゃうけど、ぐわーって落ちていく感じはあの手法でしか出ないかもしれないですね」

沖村「『(ハル)』(1996)まではモニターを出さずにいて、『失楽園』からはモニターで監督が映像をチェックはしていました。多分1回か2回でOKでした」

 

【スタッフの発言】

宇多丸「以前おっしゃっていたように、本作から女性スタッフが多くなっています」

三沢「それまでは女性スタッフはスクリプターにスタイリスト、衣装、メイクさんぐらいだったのが、照明の助手さんに特機、重いマイクを持つ録音部などに女性が増えて、こういう時代になったのかと嬉しくて。そのころまだあまりなかった女子会に行ってました。日本全体が変わった98年だったと思います」

 

 会場にいらっしゃっていた、撮影効果の本間博子氏が発言した。

 

本間「私17で、全然判ってないです(笑)。ジャージにルーズソックスで現場に行ってました。あのときはラッシュで見ても判ってなくて。20年ぶりに見て、子どももいて、直視できないところもいっぱいあって。自分の子どもがって思うと、大切にしようと思いました(笑)」

 

 つづいて製作主任の氏家英樹氏。

 

氏家「森田組を3本、『そろばんずく』(1986)と『(ハル)』(1996)と3本参加させていただいたんですけど。森田組は天気についていて、雨のシーンは雨を降らせています。全部で40日くらいだったんですが、最終日に40日分の雨がどっと降ったんですよ。だけどタイトルバックの雲の画はそのときのです。天才ですし、つきも持ってた。私が言うのもなんですけど、いろんな人に恵まれていたと思います」

【最後に】

三沢「興行はあんまりよくない。ニュースなどで議論になってほしいって気があったんだけど。法律を批判しているでしょ。どのニュースでも取り上げてもらえなかったですね。

 京香さんは主演女優賞をいっぱいお取りになって、映画自体も賞をもらったけど、堤さんはひとつも取ってない。監督も「何で堤が1個も取らないんだ」と言ってました。ただ監督の代表作とはあまり言われないので、これからどんどん見直していただきたいなと思います」

宇多丸「ぼくがずっと連載してた「BLAST」っていうヒップホップ専門誌の1999年7月号、自称映画好きで『アルマゲドン』(1999)を見ていて『39』を見てない奴がいるのだから日本で映画監督をつづけていくのも大変だって言ってます」

三沢「きょう初めて見ました(笑)」

宇多丸「次の『黒い家』(1999)はアプローチを全然変えています」

三沢「似た題材だけど同じことをやりたくないという森田の真骨頂ですね」

宇多丸「『失楽園』から『模倣犯』(2002)までのワンセットが森田さんの一時代ですね。『失楽園』もある意味であっち行っちゃう話ですから」

 

 トーク後に、スタッフのみなさまは同窓会的にロビーに集まっておられた。