近年は映画『シン・ゴジラ』(2016)や『万引き家族』(2018)などでも存在感を示す名優・柄本明。その柄本の21年前のインタビューを以下に引用したい(朝日新聞のPR誌「暮らしの風」の “わが青春の一枚” 欄に掲載されたもの)。この当時は今村昌平監督『カンゾー先生』(1998)の主演に急遽抜擢されたころであった。
商社で営業マンをやっているときに、仕事の先輩に早稲田小劇場に連れていかれてね。ゴーリキーの『どん底』の翻案の芝居。すっごくおもしろくって、2年間勤めた会社をあっさり辞めちゃいました。
アングラ演劇が全盛で、アナーキーなにおいがして…。役者になりたいというより、ああいう場所に自分の身を置きたいという感じだった。
いわゆる演劇青年っていうのとは違うと思いますよ。ぼくは「感動を与える」みたいな、熱い感じがどうも苦手でね。当時盛んだった学生運動も嫌いだったんです。「おまえはそんなに偉いのか」と思ってしまう。ぼくは大学に行ってませんからね。都立の工業高校を出て働き出したんです。インテリ連中が高みに立って声高に叫ぶのが、ものすごくイヤで。家が貧しかったこともあるんでしょうね。
この写真は二十二、三歳のころだと思う。無職のままで「マールイ」という劇団に出入りしていたころ。先輩の紹介で大道具のバイトをしていた。
後にバイト先で演出家の串田和美さんに声をかけられ、「自由劇場」の芝居に出演することになって、それが役者としての始まり。そのとき知り合ったベンガルや綾田俊樹らと作ったのが、「東京乾電池」です。「もっとくだらないヤツやろうよ」ってね。旗揚げしてもう22年です。
これだけ続いたのは、アマチュア演劇の良さみたいなものでしょうか。自分たちがやりたいことを追求できる。これだと思ってやったことが、実は「手にすくった水」みたいなもので、つかみどころがないからおもしろいんですね。
芝居ってね、ずっと続けていくとつい学んでしまうものなんだ。とにかく悪達者な芸を覚えてしまう。不安で恥ずかしくてしようがないってことを大事にする人のほうが、見るに値するという感じがします。
昨年の『うなぎ』、今週公開の『カンゾー先生』と続けて今村昌平監督の映画に出させてもらいました。監督の「スタート」がかかると空気が一変する。「下手な小細工はきかないぞ」と、すべてが見抜かれ、裸にされるような怖さを味わいました。
以上、「暮らしの風」1998年10月号より引用。
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