私の中の見えない炎

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飯島敏宏 × 小倉一郎 × 仲雅美 トークショー(2018)レポート・『泣いてたまるか』『冬の雲』(2)

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【『泣いてたまるか』(2)】

前田吟さんがミリタリールックだよ」

小倉「吟さんは、初期は不良が多かった。山田洋次さんや早坂暁さんが脚本で、監督もすごい人が多かったですね」

飯島「ぼくはふるえてたよ。他の監督は今井(今井正)さん、家城(家城巳代治)さんとか。

 庭のシーンで、庭越しに渥美(渥美清)ちゃん撮ってたの。そしたら家城さんの声が聞こえて「この庭の主木は?」って。そんなこと考えたこともなくて、はずかしいと思ったね。ぼくは若造で。当時は映画が斜陽で、大監督は金が高いから声がかからない。山田洋次さんは監督デビューしてたけど、まだ契約の助監督もやってた。松竹に脚本書く助監督がいるっていうんで洋次さんが。

 渥美さんはこの回(「男はつらい」)の女優さんが好きでね、新人だったけど。抱き上げるところも嬉しくて(笑)」

「最初の暴漢にからまれるところですね」

飯島「そう、あの冒頭にからまれるシーンが、最終日の最後の撮影だったの」

小倉「何本も撮ってる高橋繁雄(監督)が佐藤オリエに惚れたんだね。それで佐藤オリエが川に入ってくシーンで、自前の靴と衣装でやってくれと言ったらしい。渥美さんから聞いたんだけど、後から自分が新品をプレゼントするために自前でやらせたと(笑)」

飯島「公私混同だな(笑)。渥美さんの場合はかわいくて仕方なかった。

 この(終盤の)シーンは246だからね。まだほとんど家が建ってない。畑ですね。鷺沼の近く」

小倉西田敏行さんはこのシリーズがデビュー作で、いつか自分もやりたいと思ってたみたいですね」

飯島秋野太作くんのアップ撮りたかったんだけど、後ろの役でない学生がちゃらちゃら動いて邪魔でしょうがない。あいつ誰だって言ったら、助監督の推薦で西田っていうと(笑)。彼は後で「最初に出たとき、監督に何もするな何もするなって言われた」って話してたね。当時の秋野くんはまだ二枚目。この台詞で言ってる巾着切りなんて、いまわかんないよね」

小倉関敬六さんが出てますね。渥美さんが結核で所沢の病院に入院したとき、関さんと谷幹一さんと谷さんの奥さんになる女性と、池袋の駅のトイレの窓から駅に入って、所沢のトイレの窓から出る。無賃乗車で毎週見舞いに行って、そういうことがあったから渥美さんは関さんや谷さんを大事にしていたそうです」 

【『冬の雲』(1)】

 飯島氏はTBSの命令で木下惠介プロダクションへ移ってから “木下惠介・人間の歌シリーズ” に参画した。 

 

飯島「人間の歌シリーズの『冬の旅』(1970)、『椿の散るとき』(1970)、『俄 浪華遊侠伝』(1970)の視聴率は、編成がほしいくらいにとどかなくて、それで真打ち登場で次は木下さんが脚本『冬の雲』(1971)。出だしはよくなかったけど、その後は見事に上がったね。

 そのころのスポンサーの東洋工業の宣伝部長から自宅へ電話がかかってきて「飯島さん、木下惠介監督に視聴率とってほしいと言ったでしょ。視聴率をとるような、泣かせるようなものを書かせちゃいけません」。逆だよね。スポンサーは普通、視聴率をとるようにしてくれって言うのに(笑)。TBSの営業は、木下脚本でこけたらいよいよ木下劇場も終わりだと。営業は新人俳優の田村正和とか知らないんだよ。スポンサーの奥さんが知ってる俳優とか出したいわけ(笑)。

 仲さんは歌手で芝居が初めてだったから、終わると「はい、別」って言ってみんなで別室に行くんですよ(笑)」

「助監督だった高道(山田高道)さんがほっぺた膨らます癖があって、本番でそれやったんですよ。そうやれって意味かと思って(一同笑)」 

小倉「ぼくは東映との契約してたけど、やくざ映画になっちゃって役がない。それで東宝のと大映のに出て、五社協定違反でクビになった。それでオフィスワンに何とか入れてもらって、ぶらぶらしてたけど、マネージャーが木下プロに行くってことでつれてってもらって。飯島さんが「きみ、何センチあるんだい?」」

飯島「ひどいことを(笑)」

小倉「それでオッケー。台本読むとか何もない。お母さん役が市原悦子さんで、市原さんよりちょっと背が高ければいい。お母さんをちょっと見下ろすようにしたいと。ぼくにとって、飯島さんは大恩人です」

飯島「市原さんが亡くなるシーンは大変だったね。ディレクターは鈴木利正さんだったかな。稽古してて、いつまで経っても死なない(一同笑)。ADが「利さんが困ってます」って来て、何だって言ったら「市原さんが死んでくれない」。

 市原さんは俳優座の人だから、いままでの芝居は逆算してない。死ぬシーンから逆算して演技を組み立てるから、これでは納得できない。「私は死ぬ芝居をここまでしてこなかった。どうしてここで死ななきゃいけないの」と。木下さんの理屈としては、みんないつ死ぬか判らないわけだから、全然死ぬようには書いていない。「きみ、いつ死ぬか自分で判る?」って。新劇の芝居の組み立て方と映画のそれとは違うんだね。

 木下邸へ行って、現場に来てくださいって言ったら、木下さんは聡いから何かあるなって判ったんだね。木下さんが来たら、市原さんは「これで死ねるわ」(笑)。注文も何にもないんだよ。木下さんが出て来た途端に納得して死ぬ。えっと思って、狐と狸だな(笑)。怖いんですよ、名人と名人は」

小倉「山田高道さん演出の回で、市原さんが台詞言わない。高道さんは市原さんが台詞を忘れたと思って台本取り出したんだけど、市原さんは「いいの、間だから」。間だからったって長いんだよ(笑)」

飯島「高道は気を遣うんだよね(笑)」(つづく