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掛札昌裕 × 佐伯俊道 トークショー レポート・『怪猫トルコ風呂』(3)

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【初期作品の想い出(2)】

佐伯「『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969)は大傑作です。(冒頭に)片山由美子貞操帯をはめて墓参りするシーンがあります。何で貞操帯をしてるのか(笑)」

掛札「そのシーンは(台本では)始まって30分くらいのところにあったはずが、トップに持ってきちゃった。だからボルテージ上がってます。そういう入れ替えは従来の東映じゃありえないですね」

佐伯「当時のそういうのは18禁じゃなかったですね。東映本社に入れて「台本がほしいんですけど、どこ行ったらいいですか」って訊いたら企画部行けって守衛に言われて。企画部で「余ってるのあげるよ。『昭和残侠伝』(1965)?」。 『徳川いれずみ師 責め地獄』とかがほしいって言ったら、そんな奴初めて見たと(一同笑)。喜んでくれましたけどね。商業映画の台本読んだのは掛札さんのが最初です。

 『明治大正昭和 猟奇女犯罪史』(1969)、これもオムニバスですね。日本閣事件も扱ってますけど、『怪猫トルコ風呂』はこれが下敷きになってる気がします。小林カウという日本初の女性死刑囚。それを綺麗に描いたのが吉永小百合の『天国の駅』(1984)。ほんとは血まみれで。あの旅館乗っ取りがトルコ乗っ取りになり」

掛札「ああ、あると思いますね」

佐伯「1969年は5本も異常性愛映画をやられてますね」

掛札「京都の旅館にいっぱなしでしたよ。1本終わると次が入ってて、東京に帰れない。(ギャラを)使う時間もなかった」 

 掛札脚本 × 石井監督の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969)は特にカルト的な人気を誇る。

 

掛札「『恐怖奇形人間』の(発想は)石井さんですね。『猟奇女犯罪史』がヒットして続編つくれってことになって、目玉がいる。当時大映で蛇女優やってた人が実際に車の中で愛人殺しちゃって刑務所に入って、その人が出てくるところから始めようと、実写で(一同笑)。プロデューサーが交渉に行ったら断られて」

佐伯「刑務所まで交渉に行ったわけですか」

掛札「そう。他のをやることになって、ぼくは横溝正史がいいと言ったけど、角川がやる前。そしたら講談社から乱歩の全集が出て、石井さんも乱歩やりたいと思ってたんで江戸川乱歩全集ってサブタイトルつけることに。

 石井組は、本読みはなかったです。ラインが決まっちゃってて。普通の作品は社長の前で本読みして反応が判る。つまんないと貧乏揺すりして、読み終わったら中止だと。殿山(殿山泰司)さんの『日本女地図』(角川文庫)はそれでした。社長の前で読むのは面倒くさい。いまじゃもうないですね(笑)」

佐伯「『奇形人間』も「おかあさーん」って言って(『怪猫トルコ風呂』〈1975〉と同様に)昇天して終わり。」

掛札「そういうラストじゃないと終わらない」  

【その他の発言】

 掛札氏は東映作品だけでなく日活ロマンポルノも手がけている。

 

佐伯「ロマンポルノで初めて書かれたのは『奴隷契約書』(1982)ですか。あれにはびっくりしました。シロネコムサシの宅配便が女の奴隷を届けに来る。すごい発想でした」

掛札「面白かったですね(笑)。その前後に怪談物を東映に1本頼まれて “怨霊仏壇返し” っていうタイトル(一同笑)。ヒモがトルコ嬢殺して仏壇にくくりつけて水の中に投げ捨てる。「四谷怪談」みたいに仏壇が…。ホンはできたけど流れちゃった」

佐伯「『怪猫トルコ風呂』がもう少し当たってればできたのに」 

奴隷契約書[ビデオ]

奴隷契約書[ビデオ]

 佐伯氏と掛札氏は共同脚本をつくったこともあるという。

 

佐伯「あれも流れましたね。“㊙大奥猟奇物語” という。荻窪の旅館に掛札先輩が鎮座されて、夜にぼくがお邪魔する。昼間は『野菊の墓』(1981)の助監督、清純な松田聖子ちゃんの。夜は大奥(笑)。あれは社長がダメだと」

掛札「そもそも無理な企画でした。東京で大奥はちょっとできない」

佐伯「東京で時代劇やって、石井輝男さんを呼び戻そうということでした」

 

 最後に故・笠原和夫の「秘伝 シナリオ骨法10箇条」が読み上げられた。

 

掛札「テーマ至上主義は困るんですよね。テーマテーマって言う人がいるけど、面白みがなくなっちゃう。逆に言うとテーマを出すことほど簡単なことはないですね」

 

 終了後は掛札先生に、『怪猫トルコ風呂』の脚本が載った「シナリオ」2018年3月号にサインしていただいた。 

 

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