私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

藤子不二雄A原作ドラマ『愛ぬすびと』のシナリオ(脚本:佐々木守)を読む (2)

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【第1週/第2話】

 連日放送される昼ドラや朝ドラは1〜2日おきに見る視聴者を想定して、前回や前々回の内容を反復することが多かい(『長坂秀佳術』〈辰巳出版〉によると、脚本家の長坂秀佳は反復のシーンを入れるのが厭で昼ドラの仕事を降りたという)。『愛ぬすびと』(1974)も例外ではなく、第2話は前回の繰りかえしの場面が目立つ。病院の廊下で誠(柴田侊彦)が看護婦に入院費の支払いが滞っていると言われる件りや同僚の立花(武藤章生)と話す件りは、前回とほぼ同様である。

 優子(梶三和子)の見舞いに行った誠は、靴下に穴が空いているのを同室の岡村(矢吹寿子)に指摘される。会社に戻った誠のもとへ、昌子(奈美悦子)からまた会いましょうと連絡が入り、ふたりは公園で落ち合う。

 

誠「用はなんですか」

昌子「御用がなくちゃ会っちゃいけない?」

誠「(苦笑する)」

昌子「少々くたびれたOLのボーイハントだっていったでしょ」

誠「じゃ、おれ、ハントされちゃったんですか」

昌子「(笑って)進行中」

誠「悪いけど、おれ、そんなヒマは…」

 

 原作とは異なり、シナリオの昌子は積極的で誠のほうが及び腰。公園で誠は、靴下の穴を昌子に見られる。 

 

昌子「(かけよる)あなた、昨日お金のことで私たちを怒ったけど、あれは、やっぱり本気だったのね」

誠「(笑って)いやだなあ。今時、くつ下一足買うお金がないなんてことありませんよ。(去って行く)」

 昌子、じっと見送る。

 

 昌子は地下鉄の駅で誠を待ち伏せする。驚く誠を昌子は紳士服用品売場につれて行き、靴下をプレゼント。

 ラストシーンは病室。優子と岡村がいる。

 

 優子が編み物をしている。

岡村「あんた、お父さんもお母さんもいないんだってね」

優子「ええ。小さい時から伯父に育てられたんです」

岡村「その上、こんな厄介な病気を背負っちゃって、それにしてはいいご主人を見つけたものね」

 優子、岡村をにらむが、また編み物に戻る。

 

 優子の身の上が明かされるのは、原作では終盤だった。

 

【第1週/第3話】

 3話でも昌子のアプローチがつづき、会社に電話が入る。

 

立花「デートの相談か」

誠「そんなんじゃないですよ」

立花「隠すなよ。奥さんが入院して、もう半年近くなんだもんな。たまには許されるさ」

誠「立花さん」

立花「とがめてるんじゃないよ。だっておまえ、結婚式だって病院のベッドであげたんだもんな。奥さんだってわかってくれるよ」

誠「もう言わんでください(と、客の所へ行く)」

 

 病院でも優子に言われる。

 

優子「だって、男の人って、どうしても時々は女の人、ほしくなるんでしょ」

誠「きみ、そんなことどうして…」

優子「隣りのベッドの岡村さんがいってたわ」

誠「あの、中年のヒステリーばばあか」

優子「私たち、まだなんにも…」

誠「優子」

優子「初夜だってまだ…」

誠「ばか。そんなこと承知で君と結婚したんじゃないか」

優子「伯父さんは、まるで厄介払いをしたみたいに、一度だって病院へは来てくれないし、あなたは苦労するために私と結婚したみたいで、私…」

誠「優子は、いつからそんなメソメソした子になったんだ。おれたちは、あの雨の夜、ひと目会った時、お互いこの人だって決めたんじゃないか。おれは、そんな自分の気持ちを大切にしてるだけだ」

優子「マコト。(胸に顔をうずめる)」

 

 その後で、医師が誠に優子の「僧帽弁狭窄症」について説明するシーンが入る。心臓手術では「大東医大の榊野教授」が権威であるがベッドに空きがなく、優子はリューマチが進行中でもあるので、すぐの手術は無理だという。この説明は原作通りなのだが、手術代の100万円は、何故か原作の200万の半額。

 誠は仕事だと言って優子のもとを辞去し、地下鉄の駅で昌子と落ち合う。「また君に、食事やお茶をおごらせるかと思うと、心苦しくてね」と言う誠を、昌子は自宅へつれて行く。

 

昌子「男の中には、すごく女に、心理的な負担をかける人と、そうでない人がいるみたい。あなたはあとの方。どういうわけだか気がついたら、するりと女の中に入り込んじゃってるみたい。誠さん、私…」

 と、誠の足にしがみつく。

誠「あ、何かこげてるみたいだ」

昌子「いけない! お鍋の火、つけっぱなしだった」

 

 できあがった料理をふたりで食べる。

 

誠「ありがとう。おれ、こんな家庭的な雰囲気、初めてなんだ」

昌子「私だって初めてよ、OLなんて、理想ばかり高くって、えりごのみしてるうちに、どんどん年とって、気がついたらもう二十四、ね。わたしたちの会社、女子社員は二十五才が定年なのよ」

誠「(一寸顔を上げるが、むしゃむしゃ食べている)」

 

 寝室で昌子は「ねえ、誠さん、私、決心してるのよ。誠さん、ねえ。(ゆする)」と迫るが、誠は寝入ってしまう。

 ラストはまた誠のナレーションが「優子、ごめんね。おれは、ひと足先に、家庭的な雰囲気をあじわっちゃった。だけど、ほんとはきみと二人で作りたかったんだ」と言う。

 シナリオではねた割りが早い一方で、主人公がなかなか詐欺に踏み出さない。(つづく)