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野呂圭介 × 葛生雅美 × 岡田裕 トークショー(映画監督 鈴木清順の世界)レポート・『踏みはずした春』(1)

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 鈴木清順監督が今年2月に逝去。『けんかえれじい』(1967)や『殺しの烙印』(1967)、『ツィゴイネルワイゼン』(1980)などで知られる巨匠で、筆者にはテレビ『美少女仮面ポワトリン』(1990)での怪演など俳優としての仕事も印象深い。

 6月から神保町にて特集上映が始まり、『踏みはずした春』(1958)の上映後に常連俳優の野呂圭介、助監督だった葛生雅美、プロデューサーの岡田裕の各氏のトークショーが行われた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

岡田「4年くらい前、鈴木さんの特集をここでやって、90歳のときだったかな。あの席に鈴木さん座っててね。ぼくらがトークやって、ときどき鈴木さんに訊くと“知らないね” “忘れた” 。何訊いても独特のとぼけ方で。きょうはそのときのこと思い出して見てたんですけど」

 

【『踏みはずした春』】

 『踏みはずした春』は、不良少年(小林旭)とその更生に奮闘する女性(左幸子)を描いたシリアスドラマ。主役コンビの力演には圧倒される。彼女役の浅丘ルリ子がピュアで、チンピラ役の野呂圭介氏もコミカルで面白い。

 

岡田「この映画はシリアス、真面目」

葛生「でも出だしはちょっと不思議で面目躍如。さっぱり判らない。(主人公が)バスガイドなのか産婦人科なのか、なかなか」

岡田「海、葉山へ行くくだりは独特のカットバックで。小林旭がガバッと来て、足つかんで(浅丘ルリ子が)海に落っこちる」

葛生「(助監督として)ついていたか記憶にない。でも見てたらロケ地は渋谷、代官山、神宮前とか知ってるところも。中身は全然覚えてない」

岡田「武田一成さんがチーフ(助監督)で、どうせ何もやらなかったんだろうけど(笑)」

 

 岡田氏は野呂氏を、鈴木作品の「超常連」と紹介。

 

野呂「ニューフェース第4期で入って、まず劇団民藝に半年研修に行く。でも半年ももったいないから、現場にと。そしたら小沢昭一さんの役だったらしいんだけど、小沢さんが劇団の興行に行かれて、それでオーディションに。日活からぼくが選ばれました。そのときオーディションに葛生さんいらっしゃった? 樋口(樋口弘美)さんは覚えてる、審査員にいて。でも20代の若手の芝居なんて、だいたい似たり寄ったり。それで自社のを使おうってなって、ぼくに白羽の矢が立った。研修で民藝に行ってたら、監督に出会わなかった。赤い糸で結ばれてましたね(笑)」

 

 葛生氏によると、清順監督は野呂氏を、オーディションでただひとりの「非映画的な顔」だと評していたという。

 

野呂「ぼくは鹿児島から出て来て、苦節5年。やっと日活入れて有頂天になって、内容はもう覚えていません(一同笑)。自分のことで夢中。新宿のいまの伊勢丹前に新宿日活があって、毎回見に行きまして。クレジットだけでも十分。田舎から出てきた甲斐があったなって。

 スケート場で女ひっかけるシーンで、スケートなんてできないから1週間通ってやっとスケートを覚えて。新宿ミラノスケートリンクで撮ったんだけど、営業前に撮影を終わらせるってことで。その日寝坊して。高円寺の2畳に住んでいたけど、助監督に叩き起こされて、タクシーで駆けつけたら、でも監督は怒らないんですよ。にこっとして、その笑顔だけでいい監督だと思いましたね。照明は煌々として、みんなが待ってる。そんなときに遅刻して、ぼくの心情はすごいものでしたよ。監督の笑顔は忘れない。惚れ込みました。この監督についていこうと。

 次の作品は『青い乳房』(1958)。あれで、アパートでチンピラがギターを弾くシーンがあって。ぼく、田端義夫さんの付き人やってて、それでニューフェイスを見て運よく入った。主題歌が平岡精二さんで、付き人だったから唄えるかと思ったんじゃないですか。ところが見事に唄えない、譜面も読めない。うまくできれば唄える俳優になったのに(笑)」

 

【清順演出について (1)】

葛生「ぼくは『浮草の宿』(1957)で、カチンコ叩きました。このときはサード(助監督)。一成がチーフ。チーフになったのは『けんかえれじい』かな」

野呂「やっとなれたんですね」

葛生「助監督はB班が多い。実景とか、ちょっとしたワンシーン(を撮る)。役者が出るのでも、大したことない場面とかね。クランクイン前にここ(のシーン)はB班って言われて、監督にどう撮ったらいいですかって訊いたら、そんなの自分で考えて撮ってこいと。ラッシュで監督が(メガネを下げて)こうなるとまずい(一同笑)。するともう一度撮ってきますと。

 ぼくなんかB班が多いから、鈴木組についてても撮影をあまり知らないんです。つないでみて、ああこうなってたのかと。タイトルに自分の名前が出てても、何やってるのか判らない」(つづく) 

 

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