5月某日
久々の身辺雑記。ゴールデンウィークが明けた後は、だいたい怒りやショックを感じるできごとが降りかかってくる。今年もそうだった。休みで弛緩している私に神さまが筋金入れてやろうってか。嗚呼…。
5月某日
『リバース』(2017)を武田鉄矢と門脇麦目当てに見ていると、脇のゲストに山崎裕太がいた。
山崎は映画『REX 恐竜物語』(1993)など子役時代から活躍しており、岩井俊二監督には『オムレツ』(1992)と『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(1993)の2本で重用された。『打ち上げ花火』での、奥菜恵に翻弄される山崎の姿は忘れがたい。岩井は山崎を「天才系」と評しており(『キネ旬ムック フィルムメーカーズ 岩井俊二』〈キネマ旬報社〉)事実そう思われた。山崎と同世代の筆者が中学生の時分に、クラスの女子で彼のファンがいた。成人した後も内館牧子脚本『私の青空』(2000)や『年下の男』(2003)などに重要な役(主人公の生意気な弟)で出演していたが、いつのまにか山崎は地味な存在になっていく。演技力はもちろん申し分ないのだけれども、168cmという身長が災いしたのだろうか。『打ち上げ花火』の6年後のドキュメンタリー『少年たちは花火を横から見たかった』(1999)では、奥菜と並んだ山崎はぐっと背が伸びたように思えたのだが。
『リバース』の主演は藤原竜也で、藤原は内館脚本『愛しすぎなくてよかった』(1998)にて主人公の弟役を演じている。先述の通り、山崎も内館作品に登場した際は同様の役どころであった。エッセイによると内館には実際にずけずけ言う弟がいるそうで、頻出する弟キャラのモデルなのだろうけれども、結果的に山崎と藤原の台詞回しはよく似ていた。
年齢が近く、同じ脚本家の作品では合わせ鏡のようだったふたりのポジショニングの差。芝居の技術は山崎に一日の長があるように思うのだが。
5月某日
「週刊文春」の小林信彦の連載エッセイ(「本音を申せば」)が休載になった。小林も84歳。週刊誌のコラムを65歳で始めていままで継続したそのエネルギーには驚嘆するが、やはり2010年ごろから密度が落ちたのは否めない。年齢を重ねて行動力が鈍ってしまったのに加えて、同じねたの繰り返しが増えて「ぼく」と「私」の一人称がひとつの文に混在し…。
数か月前には、夢の中で故・前田武彦と出会ったなどと現実と夢想を混同するような内容を記している。谷崎潤一郎に私淑する小林はかつて谷崎の「過酸化マンガン水の夢」の奇怪な幻想を礼讃していて、それが頭のどこかにあったのかもしれない。
6月某日
集中的に、映画監督のインタビュー本を読み返した。
『清/順/映/画』(ワイズ出版)は鈴木清順監督に同様に迫ったもので、こちらは無愛想な清順に聞き手が苦吟している。『悲愁物語』(1977)についてはよく判らないと繰り返し(自作でしょうが)テレビ『愛妻くんこんばんは』の枠内で撮られた「ある決闘」(1968)については「……」のみ。対照的に『映画の呼吸 澤井信一郎の映画作法』(ワイズ出版)は、立て板に水で澤井監督が自作について論理的に語る。
監督インタビューというのは現場がどうだったという話になりがちであるので、そのパターンをどう超えるかというのが眼目?であろうか。結論は何かというと、証言を遺すのも難しいな…とそれだけ。
6月某日
先述の『映画の呼吸』では、大人向け映画がメインワークの澤井信一郎が珍しく手がけたテレビ『宇宙刑事シャイダー』(1984)と『重甲ビーファイター』(1995)についても触れられている。筆者は『シャイダー』をリアルタイムで見られなかったのだが(あるいは幼すぎて覚えていない)約20年後にレンタルビデオで鑑賞して魅せられた。特に澤井監督の第38話「魔少女シンデレラ」と第39話「仮面が踊る聖歌隊」は凝った趣向が素晴らしくて興奮。一方で『ビーファイター』は紋切り型で、見ていても特に感想が出てこない。
『映画の呼吸』では『シャイダー』は自由にできたのに対して『ビーファイター』は制約でがんじがらめ、戦意を喪失したと回顧される。澤井監督は関係ないが『ビーファイター』と同年の『超力戦隊オーレンジャー』(1995)にもどことなく不自由そうな印象を受けた。90年代半ばの特撮界の規制が厳しかったというのは、無知な筆者は初耳だけれども、その後は『仮面ライダークウガ』(2000)や『仮面ライダー龍騎』(2002)などアナーキーな時代が到来する。余談だけれども世紀の変わり目のサブカルチャーは、映画『リング2』(1999)、テレビ『池袋ウエストゲートパーク』(2000)や『ラブコンプレックス』(2000)など奔放な怪作が目立っていた。
2010年くらいから特撮ドラマでは商業的規制が強まって大変だと、さまざまなつくり手が苦衷を語るのを聴く。だが月日が流れたら、また自由な時代がやって来そうな気もする。
6月某日
橋爪の仕事はテレビ・映画で多々見てきたが、2013年12月に池袋で行われたシーラッハ『犯罪』(創元推理文庫)の朗読はとりわけ素晴らしかった。70歳を過ぎて、すたすた歩きながら多様なキャラを声で演じ分ける技量・オーラはやはり並みではなく、そのとき沈んでいた筆者はただ圧倒された。事件が橋爪氏の仕事の支障とならないことを祈りたい。