私の中の見えない炎

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片渕須直監督 トークショー(第41回日本カトリック映画賞授賞式)レポート・『この世界の片隅に』(2)

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 クラウドファンディングはインターネットでやるもので、参加していただいた方の年齢が限られていて。お金を出せてインターネットをいじれるということで、上も下も限られる。でも映画館で上映してみると20〜80代、上は90歳を越えた方までごらんいただいて、その時代の空気をちゃんと描いていると言っていただけて、これほど報われたことはないと思いました。

 ぼくらが体験していなかったもので、自分たちもどこまで描けたか判らない。空襲の音もほんとにあんな音がしたって言っていただけて、そこで確かめることができました。

 

 (調査は)大変だとは思わなくて。広島や呉にどんな建物が建っていたかとか、調べるのが愉しくて面白くて。オタク気質なのかもしれないですね。飛行機はほんとに好きで、でもだんだん怖くなってきて、その怖さを表すことができたかなと。戦闘機とかに、幼稚園のときに興味を持って、父がブリキのおもちゃの飛行機を買ってきて。

 

 アニメーションを見始めたのは幼稚園に入る前で東映動画の長編、『鉄腕アトム』(1963〜1966)もテレビで始まってて。子どものころからいつのまにか積み重なってきたものがつながって、このためにおれは存在していたのかと。誰かに使われているって気もしました。

 

 原作には“どこにでも宿る愛”っていう言葉が出てきます。周作さんとすずさんは偶然出会って、出会ったゆえに愛が芽生えて育って。最後に広島の孤児もたまたまの出会いで、そこに宿る愛がある。すずさんの失くした腕が雄弁で、右手に宿ってる。原作にあった右手の言葉を(主題歌「みぎてのうた」の)歌詞に乗せてみました。

 こういう映画の中に自分が存在しているとしたら群衆の中だなと思ってしまうので、細かく描いてしまいます。一応存在してるから気にしといてって(笑)。  

劇場アニメ「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック

劇場アニメ「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック

 プロデューサーが漏らしちゃったんですけど、この映画は、ほんとはあと30分あるんです。予算の問題で2時間で完成させました。(カットした部分も)できたらいいなあと…。その前にお休みとって、のんびりしたい(笑)。

 原作のマンガは週刊誌に連載されてて、たくさんのエピソードからなっていたんです。できるだけ映画に入れてみたい、全部すずさんにとってはかけがえのない日々で。でも30分くらいカットせざるを得なくて。全部入れようとしたら、テンポを速くするしかない。すずさんのある一日を大切に長くとか、すずさんの代表的な何日間かを描くというやり方もあって。でもここでやりたかったのは、お嫁に来てからの2年間にどういう毎日があったか。映画を通して、断片的でもいいので、いろんな日々があったと。実は昭和19年の秋から冬が抜けているんです。プロデューサーに言われなくても、またつくらなきゃいけないかなって思います。みなさんの要望があれば(笑)。

 

 すずさんがいろんな服を着ていて、でもひとりの人がそんなにたくさんの服を持ってるわけではない。子どものころにおばあちゃんがべっぴんさんだねって浴衣を着せてるんですが、あの服はどうなっていくか。ずっと登場しています。服の上にも歴史があって、それは原作にもあります。それぞれの服の運命。お嫁に行くときにおばあさんがくれた椿の服とか。びっくりするくらいドラマティックだと思います。きょうをきっかけにそういうことがあると知っていただき、また見ていただくと見えてくるかもしれません。機会がありましたら、ぜひごらんください。

 すずさんは大正14年丑年の5月生まれ。この映画をつくるのに6年かかって、つくり始めたときは85〜86歳で、いまは92歳。このすずさんがどっかにいると思ってやっています。つくるのに時間がかかって、歳をとらせてしまったなと。ぼくらもその分、経験を積み、歳を得ましたが。その経験を何かに役立てたいと思います。

 

 アニメーションにはまだいろんな可能性が秘められていて、また別の作品もできる。アニメーションはジャンルじゃなくて技法で、いろんな表現ができると思っています。

 これからまた上映していただきますが、最盛期より減ってしまって。そこにすずさんがいるとか空襲の音が怖いというのは、映画館やきょうのような大きな上映で見ていただくのがいい。群衆のひとりひとりまで、表情を描いてますから。世界の切れっぱしが映画の中にあるとしたら、真ん中だけなくはじっこに潜んでいるドラマがあるかもしれません。よろしくお願いします(拍手)。 

この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック

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