私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

山田太一講演会 “宿命としての家族” レポート(2)

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【『想い出づくり』について (2)】

 お嫁に行くのは若いのからなんてそれを笑いの種にして、いまだったら袋叩きですよ。じゃうちの娘は2、3年経つと売れ残るのか。そんなこと許せないと私怨というか(笑)。この子たちを書いてみたいと思って。

 24〜25に近づいて、これから結婚しなきゃならないと思った若い娘3人が、ひとりのうちに記憶に残る体験をしたいと思って、3人それぞれに想い出をつくろうと、結婚する前に…。それで『想い出づくり』(1981)というドラマを書きまして。結婚を圧迫と捉えて、その前に想い出をつくろうと努力するって哀しいでしょう。そのころは圧迫だと感じたんですね。その3人が力を合わせて、ある結婚式をぶち壊そうとする。結局そのときぶち壊した相手と仲直りして結婚して、ひどい目に遭うという終わりで(一同笑)結婚なんかするなというメッセージじゃないですけど。その2つのことを考えても、嫁姑は違ってきてますし、婚期の感覚もなくなってますね。それはいいことだと思ってますけど時代は動いてますですね。

 宿命とひと口に言ってますけど、流動的だと思います。家族というより、ひとりの人間として宿命性はつきまとってますですね。

 あのころはいまよりも少し厄介な時代だと思ってました。最近、『想い出づくり。』を本にして出そうという若い人がいまして、あのころよりいまのほうがよくなってるだろうとぼくが言ったら全然よくなってないと言うんですね。圧迫はとれてるけど、環境はよくなってない。詳しくは聞きませんでしたけど、自主性に任されすぎると。だまされて変な奴と結婚するとかなくなってるけど、実際の結婚が難物であることについては、いまのほうがそうかも判らないと言う人もいて、いろいろ人間って単純じゃないなと。どんどんよくなってるという進歩史観というものではない。世界は動いてる。変化はいいことのように思うけど、そこに見過ごされてるものは残っていくという。揺り戻しはあると。個人のことになると大ざっぱなことでは解決しないと感じましたね。

 

【高齢化と家族の現実 (1)】

 家族のことでは高齢化がすごい問題ですね。長生きすることがいいことだと言えなくなってきましたですね。私もそのひとりですから、葬式や友だちや知人をホームに訪ねていくことも多くなりましたですね。すると死にたいって人が結構いるんですね。そんなこと言わないで元気でね、とは言えない。そっか、ぼくも死にたいよくらいしか返す言葉がないです。親御さんのことで、そういう問題を抱えてる人は大変だと思いますですね。

 フランスの『愛、アムール』(2012)という映画、変なタイトルだけど。ジャン=ルイ・トランティニャン、昔『男と女』(1966)でかっこよかった人が老年になって、奥さんが病気になって「私を殺して」って。殺したら自分は殺人者で、でも死に対する欲求が強くなっていて、とうとう最後に枕に顔を押しつけて殺してしまう。映画だから自殺する夫がラストで、でも現実ではどうすればいいか判らない。

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 生活を愉しんでるよって人もいるけど、その人たちもどっかでほんとに愉しんでいるかっていうと多くは仕方なしにそういう生き方を選んでる。船に乗っていろんなところを回ったり、ひとつひとつは素晴らしくても単調になってくるし、船は目先が変わるわけではないし、場所によっては波にしか見えない。いっしょにいて仲間ができたり、いじめとか人が集まるとこうなるんだなと。食事になると仲間はずれとか。大人で人生を愉しんでるわけではないなと。

 ある時期までは定年で女房と旅行したいって言ってても、そういうチャンスがあると飽きて。大抵のところには行って飽きてしまって、それでも死ねない(一同笑)。すごい時代になってきたと思いますですね。

 本当にリアルに幸福なんだろうかと問いかけてみると、リアルになっていかざるを得ない。いまは幻想に頼ってごまかすこともできるけど、だんだんごまかしがきかなくなるという恐怖を感じますね。

 知り合いにお見舞いに行ったら、お母さんがかなりの歳でデイサービスに行ってますと。待って雑談してたら帰ってきて、スタッフが連れて来てそれで帰っちゃう。ぼくが手助けしようとしたら「やめてください。こういうところで妥協していくと甘えるから。這って自分の部屋まで行くから。彼女がそうすると行ってる」と。歩けないから「よく来てくれたね」と言って這っていく。お嫁さんとかは、這ってソファに体をもたせて横になるまでずっと見てる。これ、ものすごいリアリズムだと思ってね。こうして厳しくならざるを得ない。這ってる人も了解の上で、変な親切心で、ある日来て手伝っても仕方がない。そういうリアリズムまで来てるんだなと。(つづく)