私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

ジャン・ユンカーマン × 小栗康平 × 荒井晴彦 × 松井良彦 × 堀切さとみ × 野中章弘 トークショー レポート・『日本国憲法』(4)

【映画の与える影響】

堀切「映画で社会を、できるか判らなくても、変えたいという気持ちでやっています。テレビはなかなか本当のことを伝えてない。福島にもひとくくりでなく、いろんな現実がある。放射能の捉え方、避難するかとどまるか。野菜を食べようとする人、しない人。そういう意味で、事故が多くの人を細切れに分断したと。国は安全だ収束しましたとさかんに言ってて、そうでないと伝えていくメディアが必要で。すべての問題を網羅することはできませんが、自分の出会った人たちに張りつきながら、生の声を伝えていくしかない。

 ジャンさんがおっしゃったように、映画はみんなで見られる、討論できる。映画が武器になるゆえんですね。私の映画はカフェ、お寺、公民館を使って上映してます。避難してきた人、全然知らない人が見て、異文化交流ができるのがよかったかな。それで社会が大きく変わらないかもしれないけど、違った感覚を持った人を知るのはいいことかなと思っています」

松井「これまではハードでしたけど、次はかわいらしいものを撮りたい。社会に影響を与えるのとは逆で、社会から与えられたものを…。

 (『追悼のざわめき』〈1988〉を構想していた)1979年は、いまのようにゲイがカミングアウトするのは少なくて、カルーセル麻紀さんやピーターさんくらい。その当時ホモセクシャルの人と友だちになって、映画にしたいと。男女の三角関係に男3人を当てはめて、ぼく独自のアート感覚も入れて。社会の情況がぼくに影響を与えてくれている。ぼくは、社会にどう影響を与えているのかは判らないです。

 秘密保護法が通りまして、タブーとされてることを調べようとすると根拠が調べられない。あれを何とかせなあかん。はよ政権交代してほしい(笑)。根拠があやふやでつくっちゃうと、違う意見が出てきたときに理論武装できない。知りたい情報が入ってこない。動きかけてる企画はそういうのないけど、ゆくゆく撮りたいのは政権が隠そうとしてるもので難しい」 

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金子修介監督の発言】

 昨年のパネラーだった金子修介監督が「商業ベースで撮っています」と言いながら客席から発言。そこから改憲にまつわる議論が始まった。

 

金子「去年パネラーで総スカンを食らいまして。私の意見は、9条2項に自衛隊の存在を認めるという条項を設けて、集団的自衛権を禁止するという。現在は改憲という部分に関して危険が大きいので、この政権の下でいじらないほうがいい。ただ文書と現実との齟齬が出てくると思うので、ゆくゆくは曖昧である集団的自衛権憲法で禁止して自国の自衛権を認めたほうがいい。憲法より平和を守るべきでは、と。同じような意見をジャンさんが言うと拍手される(笑)。

 その席では大林(大林宣彦)監督が、殺されても殺さない覚悟が必要とおっしゃって、その覚悟がないと憲法は守れないと。それは美しいですけど、殺されてもいいのか。戦略的に(憲法に)触らないほうがいい、ただ原理的にはどうなのか。日本の右も左も賛同できる形に落とすべきではないか。そこで尊皇護憲、象徴天皇と平和主義を維持して、それで右も左も納得できるのではないかと」

ジャン「ジョン・ダワー先生も同じことを言ってて、自衛隊があることを認めるのが妥当だと。アメリカの戦争は集団的自衛権の名の下で行われている。それに巻き込まれるということは、日本の一般人も判ってきていて、でもメディアの中で取り上げられてない。自民党がメディアに圧力をかけていて、深い疑問を持っている人に応えられていない報道になる。あれほど大きな規模の自衛隊が必要なのか、アメリカとの演習が必要なのか、そういう自由な話し合いができるかというのが問題。妥協していまの憲法を守っていくという結論になるんじゃないでしょうか」

小栗「最長不倒を目指して、どこまでも変えないで生きつづけられるかに賭けたい。文字の論理性や矛盾を言えば、ある。しかし、見事な文章としてつくり直されてそれでどうなるんですか。不都合やファジーなところを積極的に残していこうと。中国の問題とかは、個別の政治でやっていく」

荒井「ぼくは1条改憲派。テレビを見てたら、今回の熊本(震災)でも天皇をありがたがってるから無理だけど(笑)。いまの天皇はいいかも判らないけど。(戦後は)天皇制を曖昧にしてきてしまった。

 自衛隊違憲で、でも(金子氏の言うように)軍隊にしちゃったら、集団的自衛権にも行くでしょう。

 北朝鮮や中国が攻めてきたらどうする、という。大西巨人さんや全学連の初代委員長の武井昭夫さんは、攻めてきたら(自分たちは抵抗せずに)殺されるんだ!と。自衛隊は、殺されないためには(相手を)殺すってことでしょ」

堀切「私が住んでいるさいたま市で俳句の会があって、ある女性が1年前に“梅雨空に「九条守れ」の女性デモ”と。でもさいたま市は公民館だよりに載せるのを却下しました。それは総意ではないかもしれないけど。九条守れと国会前に集まっていても、政治的に偏っていると。たかだか俳句で、九条守れと言えなくなってるのかと。作者の女性は裁判を始めているんですが。命を守りたい、戦争を避けたいという心情を言うことが、政治的に偏ってると言われる時代になってるんだなと。イラク戦争のように予告日を決めるということはあまりなくて、開戦日がいつか判らず戦争が始まるという証言がありました。何かを守りたいと言えない状態が来ているんだなと」

野中「ぼくは何年もアジアの紛争を見てきて思うのは、軍隊を使うのは支配者です。国民を押さえきれないと出てくるのは軍です。自衛隊が国民を守ってくれるというわけではなく、われわれに銃を向けるということはあるでしょう。自衛という言葉に惑わされてきたんじゃないか。誰が軍を握っているのか。

 現実の世界では、平和を獲得するために戦争が行われている。日本もそれを認めちゃっていて。暴力に暴力で立ち向かわざるを得ないという情況がある。だけど集団的自衛権がいいということじゃない。いきなり戦争が起きているんじゃなくて、助走がある。9.11も真珠湾も、事前に長い歴史がある。それを抑える努力しなければならない。アフガンではドイツ人が50人、フランス人は80人、イギリス人は400人死んでいます。平和のために自国の若者が数百人死ぬ覚悟がある。日本は一国だけで議論している。アメリカの集団自衛権に加わるとはどういうことか。アメリカは250回の戦争に関わってきたウルトラ軍事国家です」(つづく)