5月、早稲田大学大隈小講堂にてドキュメンタリー映画『日本国憲法』(2005)の上映と“映画監督と時代”と題されたシンポジウムがあった。
参加者は『日本国憲法』のジャン・ユンカーマン、脚本家・監督の荒井晴彦、監督の小栗康平、監督の松井良彦、ドキュメンタリー映像作家の堀切さとみ、ジャーナリストの野中章弘の各氏である。司会は小中和哉監督が務めた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
【ジャン・ユンカーマン監督】
ジャン監督は、言語学者のノーム・チョムスキーにインタビューした『チョムスキー9.11』(2002)が知られるが、『老人と海』(1990)など日本を舞台にしたドキュメンタリーも撮っている。昨年には『沖縄 うりずんの雨』(2015)を発表。
ジャン「(『日本国憲法』は)11年前に完成しまして。つくるきっかけは、その1年前に自衛隊が派遣されたことです。憲法を無視してやった行為で、憲法改正は時間の問題だと見られていて、改正するなら世界的にどういう影響を及ぼすか、検証する必要があると。地味な制作で大学の教材に使われるかと思ってたけど、この話は民主主義の根本であるので、活発なインタビューが行われて、音楽をつけて完成しました。当時は、憲法を守ると言うとメディアで無視されて、ひとつのタブーでした。それを言うのは共産党と旧社会党で、メインストリームにない、時代遅れだと。でもやがて憲法の会が7000くらいつくられて、上映会もあって、世論ががらっと変わってきた。予想できないほど風の向きが変わって、映画との距離感や受け取り方も変わりました。
2008年に千葉の幕張で9条世界会議があって、180人くらい海外の人が来て、よく9条を守ったと日本の活動家を誉めた。みんなははずかしい思いをしたそうです。本当に守ってきたのか。沖縄にあれだけの米軍基地を置いといて、9条を守ってきたと言えるのか。そのとき、沖縄の映画をつくろうと決意しました。4年前に辺野古の問題があって、シグロとつくろうと。長いスパンで、沖縄戦から描こうと思っていて。もっと前に完成させようと思っていたけど、編集が長引いて、戦後70周年に公開しました。去年の6月20日です。沖縄の問題に本土は関心がないけど、大勢の人が見に来てくれた。70周年だったのもあるけど、集団的自衛権の容認という時期で、そういう気持ちで見てくれた。沖縄を見れば、平和憲法と米軍との矛盾が見えてくる。TBSの方が、日本全体が辺野古化してきたと。政府が民意に反して、無理やり(集団的自衛権を)通そうとしている。沖縄と重なって見えて、共感を呼びました」
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【小栗康平監督】
小栗康平監督は、『泥の河』(1981)、『伽耶子のために』(1984)などで知られ、最新作は藤田嗣治を描いた『FOUJITA』(2015)。
小栗「『FOUJITA』が公開されたのが去年ですが、戦後70年に合わせて企画が進んでいたわけではなくて、めぐり合わせでこうなった。戦争と切り離して語ることはできないんですが。安保法制の問題、反安倍政権というのは前提としてあるけど。
3年前に藤田の絵画を使えると、著作権をクリアした人が私のところへ来て(企画を持ち込んだ)。戦後、藤田は美術界の戦争責任を一身に背負わされました。それで日本を離れて戻らず、著作権にも厳しくなった。戦争協力画を映画の中で使えるかと言う難題があって。未亡人の君代さんが亡くなられて、戦争画の扱いは自由になってきた。
明治19年の生まれでパリに渡って、パリ陥落直前に日本に戻って戦争画を描いて、戦後にパリに戻って、複雑な人生です。裸婦像もあるけど、西洋的でない浮世絵ふう、大和絵ふうの手法でも描かれている。日本で描いた戦争協力画は歴史画の手法で描いた。
フランスの市民社会と日本の市民社会など対立軸がいくつもある中で、日本とヨーロッパの相違を視野に入れてつくってみました。『泥の河』で監督になって、戦後性ということにこだわって映画をつくってきて、『FOUJITA』で原点に戻った気持ちです。
藤田嗣治は複雑で、去年は藤田の戦争画の一挙公開という催しがあって、真珠湾を描いたものもあって。ニュース映画などでは華々しいドンパチという記憶がありますが、藤田のは、湾の遠景に水柱が2つ3つ。動きも音もなく。映画に使った戦争画だけでなく、実際にはいろんな絵がある。藤田の発言は戦争協力に邁進していたようですが、絵は必ずしもそうではない。そのときの時事で評価されるのではなく、年月を越えて問うのが必要かなと」
小栗康平コレクション1 泥の河 (小栗康平コレクション<全4巻>)
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【荒井晴彦監督】
荒井晴彦氏は『Wの悲劇』(1984)、『共喰い』(2013)などの脚本を手がけ、『この国の空』(2015)では脚本・監督を務めた。
荒井「(『この国の空』では)宣伝が勝手に戦後70周年と。70年に合わせてつくったわけではなくて、50年でも60年でもよかったんだけど、たまたま70年で(企画が)成立。戦争が終わっても嬉しくなかった女の子の話です。野坂昭如が、日本人は戦争を天災だと思っているところがあると。戦争が終わってよかったとスタートした戦後、それを肯定できるか。戦後=奥さんが帰ってくる。望ましくない戦後、そこらへんから戦後はどうだったか、戦後の否定的側面を描けないかなと」(つづく)