「そうがっかりするなよ これは春一番さ」(手塚治虫「BLACK JACK 1」〈秋田文庫〉)
3月某日
スピッツの初期の名曲「ナイフ」は、3月になるといつも思い出される。
「君は小さくて 悲しいほど無防備で
無知でのんきで 優しいけど嘘つきで
もうすぐだね 3月の君のバースデイには
ハンディングナイフのごついやつをあげる 待ってて」(スピッツ「ナイフ」)
東日本大震災の直後、ふと思い立ってこの曲を聴いたら、たまらない心持ちになった。曲の後半にある間奏が、アップテンポであるゆえに(?)聞き手の憂鬱さを深める。哀しき春。
「今度こそ何かいいことがきっとあるだろう
いつになっても 晴れそうにない霧の中で」(「ナイフ」)

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『ウルトラマンダイナ』(1997)や『ウルトラマンネクサス』(2004)、『相棒 Season8』(2009)などを手がけるシナリオライターの太田愛は、かつてインタビューでこう語っていた。
「私自身小心者ですから、今でも春になって新しい気温に包まれると、不安を思い出すんです。親元を離れて東京へ行くときや、学校でクラス替えするときのね。一歩踏み出していくことの怖さ」(『地球はウルトラマンの星』〈ソニーマガジンズ〉)

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3月某日
名古屋へ弾丸ツアー。帰りに新幹線に飛び乗ると、雨が降り始め、ガラスを水滴がじりじり横移動。ふつうの電車や車ならばこうはいかず、高速の新幹線ゆえだろう。
たしか瀬尾光世監督のアニメ映画『桃太郎 海の神兵』(1945)だったと思うのだが、主人公が戦闘機を操縦しているとガラスの水滴が移動していくという驚くべき描写があった。戦時中に新幹線があろうはずもなく、当時の観客はどう思ったか。それ以前に、アニメのつくり手はどうやって取材したのだろう。
余談だが、1911年生まれである監督の瀬尾は2010年まで存命だったそうで、そんな時期まで生きていたというのは、アニメ映画史の展望が瓦解するような気もして、失礼ながら違和感が。
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3月某日
東日本大震災から2年後の2013年3月、神戸を旅行していた。山陽本線に揺られていると、車窓に海が広がる。春の明るい日差しが射して海は輝いていたが、そんな穏やかな情景を見てもつい津波を連想する。車内にいたおっさんとおばさんも津波がどうだとか話していて、結局みな考えることは同じなのだった。何となく暗澹たる気持ちになる。
「山か海かと聞かれたら海を選ぶほうだ。ただ3・11の惨劇のあと海が怖くなっていた」(川本三郎『そして、人生はつづく』〈平凡社〉)
筆者は山も海も双方好きだが、この時期(2013年)くらいまで海に恐怖を覚えた。それから3年、大震災からは5年。

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3月某日
卒業式シーズン。筆者が中学生のとき(1990年代)は「旅立ちの日に」を唄わされた。かの曲は2007年にSMAPが唄ってから知名度が急上昇したらしい。
そういう卒業ソングは多々あるけれども、一昨年に発表されたのがaiko「卒業式」(アルバム「泡のような愛だった」収録。このアルバム全体が秀抜だった)。タイトルは何のひねりもないが、歌詞はちょっと意味深で、恋人の別れとも友人同士を描いたものともとれる。

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「めざましの音 手紙のごめんね 心の信号 日曜日の夕方
ほつれたボタンに絡まる想い出
あなたとあたしは今日もさようなら」(aiko「卒業式」)
大団円を思わせるメロディーに乗せて、過ぎ去った日々の想い出がつづられる。「今日もさようなら」というのは、「あなた」と「あたし」の「さようなら」は日常的に反復されてきた行為であるという意味だろうか。だがきょうは卒業式であり、特別な日。「さようなら」も平生のようにはいかず、「二度と逢えなくなる様で あたしも涙が止まらない」。
卒業ソングの新たな金字塔ではなかろうか。
3月某日
小林信彦の連載コラムの一昨年分をまとめた『女優で観るか、監督で追うか』(文藝春秋)。以前はまめに追っていたのに、大分遅れて読む。主観的には、このコラムは2009年くらいから鈍ってきた感がある。

- 作者: 小林信彦
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テレビ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2015)が完結。終盤はいい加減な展開で竜頭蛇尾という気もしたけれども、終わってしまうとちょっとしたロス状態に。
恋といえば最近、立て続けに若い人に恋愛相談をされました。こんなコミュ障こじらせたような私に…。精いっぱい助言すると、嘘か誠か「おお、ありがとう!」などと言われた(感謝の気持ち、ありやなしや)。
昔の自分に教えてあげたい。「未来のお前は、偉そうに若い奴らの恋愛相談に乗ってるよ」って(笑)。
長く生きていると、よくも悪くも思いがけないことが起こる。これからも、命ある限り、過去の自分に教えたくなるようなことがきっとあるだろう。
「これからほんとうの春がくるんだ」(手塚治虫「BLACK JACK 1」)

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