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根岸吉太郎監督 × 松本花奈 トークショー レポート・『サイドカーに犬』(1)

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 かつてにっかつロマンポルノの枠内で『暴行儀式』(1980)、『女教師 汚れた放課後』(1981)といった作品で頭角を現し、『遠雷』(1981)、『雪に願うこと』(2006)、『ヴィヨンの妻』(2009)など滋味にあふれた秀作を発表してきた根岸吉太郎監督。京橋のフィルムセンターにて、その根岸監督の自選特集が行われている。2000年代の根岸監督の作品中で最高傑作ではないかと思われるのが『サイドカーに犬』(2007)。

 

 家庭不和の中で、小学生の薫(松本花奈)は父親(古田新太)の彼女・ヨーコ(竹内結子)と出会った。薫はおどおどしながら、かっこいいヨーコに魅せられ、ひと夏を過ごす。そして、突然訪れる別れ。

 『サイドカー』では小さな世界の動静が老練な演出でつづられ、厳格に設営されたカメラワークの巧みさ、構図の美しさ、演技の呼吸の良さ、効果音のおもしろさなどには舌をまく。筆者は何年も前にテレビで見ていたのだが、特集上映にてスクリーンで見て、記憶を上回る完成度に唸った。上映後には根岸監督と薫役・松本花奈氏のトークショーがあった(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

根岸「傑作ですね(拍手)。10年経つということで、10年間見てないんで、ああこうやって撮ってたって思い出して。監督の業か、こうすりゃよかったとか思いながら。でも話の中へ少しずつ入っていって、途中から監督をやめて観客になっていました」

松本「8歳とかだったので、いま18歳で10年経ったなって」

 

【原作とシナリオ】

 原作は、長嶋有『猛スピードで母は』(文春文庫)に表題作とともに併録されている。長嶋氏は『猛スピード』により芥川賞を受賞。

 

根岸「(シナリオが数年がかりだったが)別にあたためたんじゃなくて、時間が経ってしまった。

 長嶋さんが芥川賞取って、「猛スピード」は母の新しい像だなと。長嶋さんは80年代にこだわりがあって、ちょっと前に「サイドカーに犬」を発表されて、本になるとくっついてた。物語としては映画的で、少女とある年代の女性、大人の中に巻き込まれる少女、少女に投影して自分の生き方をさがす女性。

 ホンをつくるのは難しかったです。短編のよさを失わないで、長くしたい。長いのは好きじゃなくて、2時間を越えると厭になっちゃう。大作ならいいけど、大した話じゃないのにだらだら撮る人もして。自分で長いのをたまに撮ると、切りすぎてプロデューサーに怒られたり。

 どんなエピソードを入れてけるかが勝負で、少しずつ積み重ねました。ふたりの脚本家(田中晶子、真辺克彦)にもたくさんアイディアをもらって。時間があってよかったです。サッカーのワールドカップがあってジダンが頭突きをしたんですよ。すげえと思って。サッカーが好きでよく見ていて、頭突きが言語になるという強い印象を持った。頭突きの映画にしたい」

 

 クライマックスにて描かれる、ふたつの頭突き。未見の方はぜひ見ていただきたい。

猛スピードで母は (文春文庫)

猛スピードで母は (文春文庫)

【キャストと撮影現場 (1)】

根岸「花奈さんはもちろんオーディション。すごくたくさんの子に会って。(冒頭の)釣り堀にいる子もオーディションです。花奈さんは決してうまい方じゃないけど、人を見ている姿や不思議な歩き方、これが薫という女の子を表すかなと。薫は走ったり歩いたり、気持ちを身体的に表してる。それがこの映画の肝かな。釣り堀の子のほうが芝居はうまいけど」

松本「2作目で、まだ大阪に住んでいて、撮影が東京でした。オーディションでは8人くらいで、いろいろな役をやって。退出するときにやった役が薫じゃない役で、あっダメだって号泣しながら帰ったら、後日決まって、飛び上がって喜んで。思い入れは深いですね。

 (監督の演出は)やりやすかったですね。子どもとして扱われなかったのが嬉しくて。一人間として見てくれていました」

根岸「薫の反応は大事で、とまどったり判らなかったり、好奇心とか、言葉にならない感情がある。大人のやることにとまどう、それが見ている側にも跳ね返ってきて、大人としての存在を揺るがす」

 

 主演・ヨーコ役の竹内結子は、当時は『黄泉がえり』(2003)、『いま、会いに行きます』(2004)などのイメージが強かった。

 

根岸「竹内さんは『黄泉がえり』とか幽霊みたいな役が多くて、もう少し現実的な役でと。本人が、ホン読んで気に入ってくれて。プライベートでぐちゃぐちゃしてて、この役で吹っ切ってくれた。ぼくは人のプライベートを利用するのがうまい(笑)」(つづく

 

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