私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

橋口亮輔監督 ティーチイン&舞台挨拶 レポート・『恋人たち』 (2)

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【橋口監督ティーチイン (2)】

 瞳子(成嶋瞳子)が、自らの職場の話を肉屋の男(光石研)に一方的に話した後、「私の夢は」と言った瞬間に画面が切り替わる。

 

橋口「品川に停まらないっていうのは実話。ワークショップの成嶋さんの自己紹介で、“ブタがブタ肉を差し出すか、ニワトリが卵を産んで差し出すか”と言われたと、それは使いました。“夢はあるかって訊いたじゃん”っていうのは、ぼくの創作です。

 そこで三角関係で修羅場っていうのは、見たくない。安藤玉恵は皇室詐欺をする女ですから、男に見切りをつける。滑稽なんだけどせつなくてっていう。“あたしの夢は”っていう瞳子の夢は何だったんだろう、あの男と愛し合ってるわけではない。胸に飛び込んでいこうとは思ってなくて、ただ自分の人生を変えたかったんだろうと。自分は不幸だとは思ってないけど、心の中では他の人生があると思っていて、山の上でおしっこしてるときに“破綻してもいい”と。そんなことでもないと自分の人生は変わらない。『ぐるりのこと』(2008)ではリリー(リリー・フランキー)さんが“自分、嬉しいんか”って(妊娠した)木村多江さんに訊く。そのシーンのとき、リリーさんが“こうやって人生決まってくのかな”って。リリーさんはもてるから独身だけど、タイミングを逃した。外からの圧力があって人生は決まっていく。瞳子は、自分の人生はこれしかないと思った。

 成嶋さんも派遣として働いていて、これから女優としてばりばりやっていくとは思ってないんじゃないかと思うけど瞳子と重なるというか、ほんとはどう思ってるか、答えてくれない」

 

 瞳子の日常生活のシーンにも、橋口監督の実感が込められている。

 

橋口「ノンケの人とつき合ったことがあって、2か月くらい。40ぐらいの人で、35までノンケだったと言い張ってて。うちに泊まりに来て、おれ麻婆豆腐つくって、ごはんと味噌汁よそって出したら、その人何もしないで“あっため直して”って。えーって思うじゃん。あーノンケの男ってこうなんだ、女って大変なんだ。女はこんなのに毎日つきあってんだ。

 うちの両親は離婚してるけど、水商売の母は気性が激しかった。それで父は再婚して、相手の方は38歳で初婚で、裁縫をしてた人。実母とは全然違って、父はこういうのがタイプだったのか…。ぼくは18で上で寝ていて、童貞だったけど、下が変だなってなんか判る。夜、水飲もうと降りていったら、電気消えてた。ぼくが降りてきたのに、その人、スカート上げて拭いてた。不潔とは思わなかったけど、これで幸せなのかな。38で初婚で普通の顔立ちで、こんなこぶつきと結婚して。上は服着てて、髪も乱れてない。またがったってことでしょ。そんなつまんないセックスして、幸せなのかな。その後は疎遠で、3年前、父がガンで亡くなったけど、久々に義母と会ったら、30年以上幸せに暮らしてたらしい。いろいろ病気併発して大変だったけど、きめ細かく世話してくれて。だから人の幸せって判らない。

 ラストで、瞳子も四ノ宮も心の中は変わった。ここが私の場所って、生きていく。とうこって、成嶋さんが演じてるのもあるけど、なんか何があっても大丈夫そう。タフだよね。成嶋さんってそういうところがある。

 『ハッシュ!』(2001)のころは楽観的で、まだ38だった。でもあそこには戻れない。(『恋人たち』〈2015〉は)きついって言われるけど、世界を見渡したらきついことって多い。愉しい映画も必要だけど、それ以外も必要。自分の人生を映画に反映してしまう。『ぐるりのこと』の後にいろんなことがあって、それを反映せざるを得ない。ハッピーな作品をお仕事としてつくれるし、自分を出さなくて済むしらくだけど、自分を出さないとぼくの作品にならないと。ワークショップでやった60分の『ゼンタイ』(2013)は愉しかった。みんなでエチュードやってもらって肉づけした。あれには自分とは別のところがある。でも長編映画だと、自分を持ってこないと力が出ない」

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【キャストの舞台挨拶 (1)】

 ティーチインの後は、メインキャストがずらり並んでの舞台挨拶。まずは妻を亡くしたアツシ役の篠原篤氏。

 

篠原「(公開日の)11月14日にここに立たせていただいて、こんなにまで来ていただけるとは想像していませんでした」

橋口「彼は、3年前は暗かった。30歳を前に芽が出なくてもやもやしてる感じ。顔が明るくなりました。日本アカデミー賞も受賞して、ダイエット中(一同笑)」

 

 つづいてアツシの働く“太陽”の大津尋葵氏。滝藤賢一の映画にも出演が決まった。

 

大津「滝藤さんが『恋人たち』見て、呼んでくださいました」

 

 泉ピン子には、おもしろい顔だと言われたという。(つづく

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