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手塚るみ子 トークショー レポート・手塚治虫ガールズ&ラブリー 版画展 (1)

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 1月、銀座三越にて“手塚治虫ガールズ&ラブリー 版画展”が開催されており、プロデューサーの手塚るみ子氏のトークが行われた。手塚治虫のマンガ・イラストからるみ子氏がセレクトされた作品を、版画にして展示してある。

 手塚るみ子氏は、手塚治虫の長女で手塚プロダクション取締役。『オサムシに伝えて』(光文社知恵の森文庫)、水木悦子・赤塚りえ子との共著『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(文春文庫)といった著作もあり、特に前者は読ませる好著である。

 るみ子氏は『火の鳥』が描かれた“痛キモノ”姿で登場(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。 

 

 

るみ子「あけましておめでとうございます。慣れない格好をしてまして、演歌歌手のような…(笑)」

 

 今回は“ガールズ&ラブリー”という切り口での展覧会。

 

るみ子「手塚は1946年にデビューして、今年でデビュー70周年。700タイトルの作品を描いてきて、青年誌や少年誌のイメージが強いと思うんですが、かわいらしい作品もたくさん描いたことを知ってもらいたくて。

 少女マンガは10年くらい集中して描いていて、30タイトルくらい描いて、ぴたっと止めてしまった。『リボンの騎士』は知られていても、他は知られてない。私も覚えていたのは『リボン』や『エンゼルの丘』で、読んでない少女マンガが多かった。それに気づいたのが数年前で『手塚治虫美女画集』(復刊ドットコム)の古いバージョン(ジュネオンエンタテイメント)を見ていて、ああ、手塚治虫ってこんなにかわいらしいのも描いていたのか。『I.L』『人間昆虫記』の大人の美女を描いてきた一方で、愛らしい少女像も描いていると改めて気づかされて。何かの機会でお見せしたいと思っていたんですね」

【展示作品の解説 (1)】

 るみ子氏が『リボンの騎士』をはじめ、連載作品について解説された。

 

るみ子「『リボンの騎士』は代表的な少女マンガのひとつで、これがヒットして10年くらい少女マンガに筆を走らせています。それまでは9本が少年マンガで(少女マンガは)あと1本くらいだったのが、この時期は6:4くらいの比率で少女マンガを描いていて、少女向けだけの年もありました。この時期、少女雑誌もたくさん出てきて、出てくる度に手塚の少女マンガが必ず載っている。若干タッチが違っていて、最初に描いたのは色味にウォルト・ディズニーの影響が大きい。色遣いや顔立ちに初期のディズニーの影響が伺えます。マンガではあるけど、絵画としても美しい。

 『双子の騎士』は、ぱっと見たら『リボンの騎士』かと思われるでしょうが。「少女クラブ」での(『リボンの騎士』の)連載が終わって、雑誌を変えて続編が描かれました。サファイヤとフランツが結婚して、双子が生まれる。単行本にするときに、誤解が生じないように『双子の騎士』のタイトルをつけました。愛らしいキャラが出てきて、『リボンの騎士』以上に読んでもらいたいと思っています。 

双子の騎士

双子の騎士

 『虹のとりで』は、アラビアンナイトのエキゾチックな世界観が表れていて、冒険活劇でもある。ディズニーや宝塚、外国映画が発想につながっていて、この作品は『バグダッドの盗賊』(1940)のオマージュと言われています。

虹のとりで

虹のとりで

 『あけぼのさん』は、バレリーナの少女が主人公のお話です。和風なタイトルなんですけど、手塚版の『赤い靴』(1948)、『ホフマン物語』(1952)ですね。宝塚歌劇を見て育った手塚は舞台上のダンスを好んで、家のテレビでダンスやバレエをよく見ていました。私もバレエを習っていましたけどテレビを見て、手塚が解説したり。

 『エンゼルの丘』は、『リボンの騎士』につづく手塚の二大少女マンガです。「人魚姫」のお話で人間社会を人間の男の子と過ごす。ロマンティックで、女性同士のライバルもいるといった物語が展開される冒険活劇でもあります。祖母の家に行くと、『エンゼルの丘』が全部揃っていて、読んで髪型にあこがれましたね。幼稚園時代の私のあこがれです。連載されたのはもっと前ですけど。この作品は原画が手塚プロに綺麗に残っています。

エンゼルの丘 1

エンゼルの丘 1

 「野ばらの精」はヨーロッパが舞台で、ヒロインは不遇ですが、それにもめげず自分の運命を打破しようとする。森で出会った、ピノコのようなキャラもいます。この作品はあまり知られていなくて、私も今回初めて読みました」

 

 つづいて読み切りの作品について。

 

るみ子「「鳥寄せ少女」では、他のイラストレーターやマンガ家の先生の影響も伺えます。松本かつぢさんなどを取り入れている。

 「孔雀貝」は、「みどりの真珠」という題で描かれていて、「人魚姫」に近い。島に流れ着いた青年のロックが、王女と恋に落ちるんですが、王さまに反対される。青年は自分の生まれた国に帰りたい。王女は孔雀貝を取るために海に飛び込んで、溺れて亡くなる。悲恋ではあるけど、王女自身は貝を手にして、満足して亡くなっているのが美しい話です」(つづく) 

定本 オサムシに伝えて 立東舎文庫

定本 オサムシに伝えて 立東舎文庫