私の中の見えない炎

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対談 中島丈博 × 新藤恵美(2004)・『牡丹と薔薇』

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 2004年に大ヒットした昼ドラマ『牡丹と薔薇』。姉妹(大河内奈々子小沢真珠)の愛憎を描く物語で、まず生まれる前の親たちの抗争から始まり、子ども時代から妙齢に達するまで壮絶な闘いが繰りひろげられる。

 以下に引用するのは『牡丹と薔薇』の放送中に行われた脚本家・中島丈博と姉妹の祖母・美晴役を演じた新藤恵美との対談である。

 中島は『風のロンド』(1995)から昼ドラに進出し、『真珠夫人』(2002)をヒットさせる。『真珠』のヒットを記念して、「ドラマ」2003年10月号では中島のキャリアを振り返る特集があり、氏は『牡丹と薔薇』という新作の昼ドラを執筆中とエッセイに記していた。その『牡丹』は『真珠』を上回る話題を呼ぶことになる。

 新藤は『牡丹』のほかに、『風のロンド』、『砂の城』(1997)といった中島脚本の昼ドラに出演している。 

新藤 先生の新作に出させていただくのは7年ぶりなんですよ。『風のロンド』から『砂の城』までの間は2年だったんですけど。

 

中島 そうだった? 『風のロンド』のラストは怖かったねぇ(笑)。

 

新藤 先生がお書きになったんですよ!(笑)。息子役の黒田アーサーさんを刺して、自分も死ぬっていう…。今回の美晴役はおとなしいほうですね。もう30年若かったら、香世小沢真珠をやりたかった(笑)。

 

中島 だけど、美晴が鏡子川上麻衣子のお腹をつつくところなんか、良かったねぇ。

 

新藤 「男は騙せても、あたしは騙せないわよ!」って(笑)。

 

中島 美晴は鉄火な女で、人生の裏もかなり見てるってことが、あそこですごくわかる。ああいう迫力ある芝居はなかなかできないですよ。

 

新藤 そのあと鏡子に優しい言葉をかけて心を開かせるところも、ただ策略的なだけの女性ではないように、先生が書いてくださっているので。

 

中島  「あたしのところに相談に来て」って美晴のセリフがあったから、そういう場面を入れようと思っていたんだけど、いつのまにか手切れ金の話をつけにいく展開になっちゃって(笑)。

 

新藤 手切れ金を渡して、このお金で旅行でもすれば? って言うところも、普通なら「海外」旅行なんだけど、台本には「外国」旅行って。どうしても今使っている言葉が口から出そうになったけど、でも昭和40年代の当時は確かに「外国旅行」って言ってたと思うんです。そういう言葉づかいも含めて、“中島ワールド” なんですよね。頭ではわかっていても、口がなかなか慣れなくて。

 

中島 なるほどね。僕が自分でいちばん好きなセリフはね、鏡子の「あたし、子どもは産めなかったけど、ダイヤは産み落としたって思ったの」っていう(笑)。

 

新藤 で、美晴が「汚らわしい!」って。

 

中島 しっかり認識させてもらわないといけないと思って、美晴のセリフを書き足したんです。

 

新藤 あのダイヤのネクタイピン、豊樹神保悟志さんとのシーンで「ウンチと一緒に出てきたダイヤなんて!」って嫌がるところがあって、台本では美晴が匂いを嗅ぐことになってたんですけど、それだけは…(笑)。鼻先まで持っていくはずだったんですけど、ちょっと持ち上げるだけにしてもらって。演じるほうは大変なんですよ、先生(笑)。

 

中島 でも、あのダイヤに関してはみんなおもしろがってくれたし、おもしろがるってことは大切なことだよ。鏡子の水枕が破れる “破水” のところも、あれがやりたいばっかりに、鏡子に「豊樹さんにはまだ言わないで」って美晴に口止めさせて、偽装妊娠だってことを豊樹が知らないままにしたんです。

 

新藤 先生って、脚本をお書きになるのは早いんですか?

 

中島 ノッてるときは早いですよ。ノリノリだと、一つのシーンがすごく長くなってしまうんだけどね(笑)。

 

新藤 『風のロンド』のときに、私、11ページもしゃべり続けるシーンがあったんですよ。だから、今回も覚悟していましたけど。

 

中島 僕はセリフ劇がとっても好きなんだね。ほんと、俳優さんには迷惑かけて(笑)。以前、南田洋子さんが言ったことがおかしくてね。僕が書いた昼のドラマに出てるときに夢を見たんですって。口の中が活字でいっぱいになって、「これ以上、入らない!」(笑)。苦しくてうなされたって。

 

新藤 私は夢は見なかったですけど、やっぱり必死になって覚えます。撮影も、朝8時入りで夜の4時まで、なんてスケジュールですし。先日は「みはる」(引用者註:美晴の経営する割烹「みはる」)のシーンが1日に19もあったんですよ。

 

中島 それはそれは(笑)。

 

新藤 週1のドラマだったらもっとゆっくりですけど、お昼のドラマはテンポ早くやらないと。途中から象造役で入られた峰岸徹さんが、「うーん」とか「あー」とか間をとった芝居をなさるから、「のばすのはダメ!」って言ったんですよ(笑)。この仕事終わってよそに行ったら、「もっとゆっくりお願いします」って言われるだろうねって大笑いしたんですけど。

 

中島 できるだけカットしないで全部やってもらいたいっていうのが、書いたほうの願いですからね。

 

新藤 それは役者も同じですよ。

 

中島 今回うれしいのは、役者さんたちが中和せずに演技をしてくれているんだよね。女優さんには悪い役とか強烈な役をやりたくないっていう、自己防衛本能みたいなものがあると思うんだけど。ゴールデンタイムのドラマほどカッコつけてるでしょ(笑)。『牡丹と薔薇』では、新藤さんはじめみなさん、容赦なく性格をむき出しにした演技をしてくれているから、ほんとに見ていて楽しいですよ。(「テレビブロス」2004年3月6日号より引用)

 

 それから11年。2015年初冬から同じ脚本家 × メイン演出家のコンビによる『新・牡丹と薔薇』が放送中。

 

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