葛飾北斎の娘・お栄を主人公にした、原恵一監督のアニメーション映画『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』(2015)。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)、『河童のクゥと夏休み』(2007)などで知られる原監督の新境地となった。
また現在公開中なのが、ワークショップの受講者をメインキャストに起用した『恋人たち』(2015)。通り魔で妻を亡くした男(篠原篤)など3組の人物たちを描いた、異色の群像ドラマである。『ハッシュ!』(2001)や『ぐるりのこと』(2008)などで知られる橋口亮輔も、本作で新しいステージに入った感がある。
12月、今年新作を発表した原・橋口両監督の公開対談とオールナイト上映が新宿で行われた。両監督が親しかったのというのは知らなかったが、そう言えばご両人は故・木下恵介監督の信奉者であった。
『百日紅』の裏側に密着したドキュメンタリー『Making of “Sarusuberi” 百日紅は如何にして咲くか』も上映され、その監督の冨樫渉氏が対談の司会を務めた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
【両監督の出会い】
原「ぼくは鮮明に覚えてて。ぼくがたまに飲んでた東宝の人に“いっしょに行きましょう”って言われて、2002年のヨコハマ映画祭に行って、この方が橋口さんとも知り合いで、そしたら橋口さんが“ぼく、『クレヨンしんちゃん』大好きなんですよ”って。え、実写の監督が『しんちゃん』を見てるんだ。翌年の毎日映画コンクールでも」
橋口「あ、お会いしましたっけ。ぼくは『クレヨンしんちゃん』が心の支えですよ。『ハッシュ!』の後、鬱で引きこもってた。ブッシュ大統領(当時)が空爆して、世の中は大騒ぎ。(原氏が演出した)テレビの『しんちゃん』は西部劇の世界で、夜盗が攻めてきてパニックになってる。それは世相を反映していて、そこへ町長が現れて、“私たちがまずすることは、怖いってことに勝つことです”と。どの政治家もコメンテーターもそんなことを言わずに、大騒ぎしていた。原さんは人として正しいことをしている。それは生きる支えになりました。そこで毎週見て、映画も『ハイレグ』(第1作の『クレヨンしんちゃん アクション仮面vsハイグレ魔王』〈1993〉)から全部見て。
ヨコハマ映画祭へ行ったら、原さんがいる。“生きる支え”って本音だったんです。それでサインもらった(笑)。訊いたら、ふらっと遊びに来たって。映画祭にふらっと?(一同笑)」
原「その前の年に宮崎映画祭へ初めて行って面白かったので、それを東宝の人に言ったら、“行きましょう”って。何の賞ももらってないのに(笑)」
橋口「『オトナ帝国』は何の賞ももらってない。あのとき賞を与える勇気がなかった(一同笑)。それで翌年、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(2002)で賞が出て」
原「『オトナ帝国』は(完成当時)ぼくのいた会社やテレビ局の偉い人には不評でした。“こんな不愉快な映画は初めて”とも言われて」
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【『百日紅』の表現 (1)】
橋口「(『百日紅』では)妹が死んだとき(主人公が走る場面で)ワンカットでぐっと行く。昔のアニメで見たような、いまはあまり見かけないけど。『オトナ帝国』でもしんちゃんがタワーを走って上っていく。同じような勢いを感じました」
原「あのカットはひとりのアニメーターが3か月かけて描いたんですよ。全部手描き。いまどきは3Dのカメラワークをつくって、手描きのキャラクターを乗せるのが主流。でも昔ながらの背景動画のほうがあのシーンに相応しいんじゃないかな、3Dとの組み合わせじゃ伝わらないかなって」
橋口「伝わっていたと思います。いちばん高まるシーン」
冨樫渉氏によると「原さんが頑なに“手書き”“手書き”と」現場で連呼していたという。
橋口「『百日紅』は美術も素晴らしかったですね。この時代の江戸へ行ってみたい」
原「『魔女の宅急便』(1989)の美術をやった方です」
原氏は、木下恵介監督の青年時代を描いた『はじまりのみち』(2013)にて、実写映画の監督に初挑戦。
原「実写の経験があったので(『百日紅』では)アニメーションにしかできない画づくりをしようと。原作を損なわずに、アニメーション表現をなるべく追求しようと」
橋口「もののけみたいなのが出てくる場面とか、実写でもCGを使えばできるけど、アニメのほうが飛躍の仕方が自然ですね」
原「いまでもアニメーターが紙に鉛筆で描く。人力でつくってる。3年ぐらいかかりました。『はじまりのみち』も『百日紅』も同じ時期に始まって、杉浦さんの原作も大好きで。『はじまりのみち』の間、(製作の)プロダクションIGに待ってもらってました」(つづく)
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