幼いころに多くの人が一度は通過しただろう、ウルトラマン、仮面ライダー、戦隊といった特撮物。稲田豊史編『ヒーロー、ヒロインはこうして生まれる アニメ・特撮脚本術』(朝日新聞出版)は、主に1990年代以降の子ども向け特撮ドラマを執筆した脚本家6人の対談集である。彼らはベテラン・中堅で、不勉強な筆者はそのすべてを見ているわけではないのだけれども、特撮物の枠組みの中で強烈・痛切な作品を遺してきた強者たちである。印象的な発言を拾ってみたい。

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まず、『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)や『仮面ライダーアギト』(2001)、昨年に刊行された長編小説『海の底のピアノ』(朝日新聞出版)などでハードな愛憎を描く巨匠・井上敏樹と、アニメ『魔法少女まどかマギカ』(2011)をヒットさせて『仮面ライダー鎧武』(2013)で実写特撮に初挑戦した虚淵玄。
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井上氏は豪快かつドライである。
「視聴者の声なんて無数にあるんだから、そんなのをいちいち聞くのはプロじゃないよ。脚本家にしろプロデューサーにしろ。海外ドラマだと視聴者の意見を聞いて結末を変えていくものもあるらしいけど、そりゃ愚かしいと思うね。「あ、そう」としか言いようがない」(『ヒーロー、ヒロインはこうして生まれる』〈朝日新聞出版〉)
井上氏が初めてメインライターを務めた『ジェットマン』は、もう24年前。井上氏をはじめ、複数のライターや監督が参加しているゆえ、つじつまが合わないこともある。
「今はそんなことないと思うけど、昔の戦隊物の監督は自分の回の脚本しか読まなかったもんね。他の監督回の脚本なんて読みやしないから、話がつながってない(笑)。よく俳優から俺のところに電話がかかってきたよ。監督がこんなバカなことしてて、話がつながんないんです、どうしましょうって(…)だから俺がプロデューサーに電話して、今こんなことになってるぞってチクる。俳優からチクられたことをさらにチクるのが俺(笑)」(同上)
『ジェットマン』では、前半の井上脚本回と他のライターの回とでかなり印象が違ったが、後半になると他の回でも井上脚本に合わせていこうという姿勢が感じられた(イエローがホワイトを好きだとか)。

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虚淵氏は『鎧武』を書き終えたばかりで、グロッキー気味。『鎧武』は「色々と問題を抱えてる現場だと思った」と少々ぶっちゃけている。
「恐怖の創造は、フィクションを作る上では一番やりがいがありますよね。視聴者の役にも立つかなって気がするんですよ。いくら恐い思いをしたって、画面から何かが出てくるわけじゃない。ただその覚悟や心構えみたいなものを、物語を使ってシミュレートはできるし、それが日常生活で役に立ったりする瞬間が、自分の経験としてもありました。同じテレビを見る行為でも、和んだり笑ったりするより、恐怖を感じるほうが少しは意味があるのかなって思います」」(同上)
『鎧武』は、筋や設定もさることながら首を絞め上げる描写など、近作の中では苛烈な面があった。強い印象を遺したのは、虚淵氏の尽力の賜物だろう。
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つづいて、『未来戦隊タイムレンジャー』(2000)や『仮面ライダー電王』(2007)、『烈車戦隊トッキュウジャー』(2014)など、戦隊・仮面ライダーにて重厚な男たちのドラマを手がける小林靖子と、『ウルトラマンマックス』(2005)や『牙狼』(2005)、『ウルトラマンギンガS』(2014)などウルトラマンを中心に多様な作品に参加している小林雄次。
小林雄次氏は、小林靖子氏の『タイムレンジャー』のシナリオに感嘆する。タイムレンジャーのうち4人は未来人で、1人は現代人。
「あと印象的だったのは、4人が未来人と知ったタイムレッドが第2話で自分の未来はどうなってるのかって聞いちゃうという(…)未来人の1人が、そんな細かいこと歴史に残ってるわけないだろって言っちゃうんですよ(…)そう言われて「未来ってもう決まってるのか」と知った主人公が「未来は変えられなくたって、自分たちの明日ぐらい変えようぜ」って4人を諭す流れをものすごくドラマチックに感じて。まだ2話なのにキャラクターの心情を深めてきてるなあと。普通、1・2話目は基本的なキャラクター紹介とかフォーマットの紹介で終わってしまいがちなのに」」(同上)
小林靖子脚本の、短い時間の中で制約をこなしながらドラマを入れ込む技を、小林雄次氏は的確に捉えている。(つづく)
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