私の中の見えない炎

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和田誠 × 平山秀幸 トークショー レポート・『快盗ルビイ』(2)

和田誠伊丹十三(2)】

平山「ご両人とお仕事させてもらって。スタッフは40〜50人いるんだけど、スタッフから出てきたいろんなアイディアに伊丹監督はまずクエスチョンをつけて、スタッフの言うことを疑ってかかる。これは悪い意味じゃないですけど。

 和田さんはスタッフのアイディアをとりあえずやってみようって、相当許容されてましたね。アイディアを上手にコントロールされていた」

 

 2本の助監督を務めただけに平山秀幸氏は和田誠監督の資質をよく捉えている。

 

平山「和田さんの映画は『快盗ルビイ』(1988)のキスシーンでも『麻雀放浪記』(1984)でも、乾いてますね」

和田「『麻雀』でも、死ぬシーンが乾いてる。でもあれは原作(阿佐田哲也)が乾いてるからね」

【スタッフのエピソード】

 『快盗ルビイ』では小泉今日子真田広之が室内で唄うシーンもある。

 

和田「『ルビイ』は照明がユニークですよね。唄い出すとスポットが当たるとか。普通のマンションで当たるはずないんだけど。現場で打ち合わせてないのに、いきなりスポットが当たったからびっくりして。ベテランの照明・熊谷秀夫さんのアイディアで、現実にはありえないけど効果的だなって。(採用したら)熊谷さんも喜んでくれてね」

平山「録音は橋本文雄さんで、この人もプロ中のプロ」

和田「初めて撮ったときは(スタッフのことは)そんなに知らなかったんです。

 知識として、橋本さんは助手時代に『羅生門』(1950)、熊谷さんは『雨月物語』(1953)をやってると。現場へ行って、緊張します(笑)」

 

 唄う場面の他にも、マンションの屋上での夕焼けのシーン(セット)などフェイクな面白みがある。犯罪に手を染めるゆえに苦悩する真田広之が悪夢を見るシーンには笑ってしまう。

 

平山「『麻雀放浪記』はドキュメント的ですけど、『ルビイ』はつくり込んでますね。

 セットに夕焼けを描いたり。あれはなかなかうまくいかなかった。撮影の丸池(丸池納)さんがピントを合わせようとするとどんどん後ろへ行っちゃって、じゃあセットを暗幕で覆うことにしたら、にっかつから他の作品もあるからやめてくれって」

和田「丸池さんはリアルじゃないと言ってました。カメラマンとしては本物を撮りたい、だから悩んでましたね。そこへ熊谷さんがライティングしてくれて、見事な夕焼けになりました」

平山「そういう人工的な愉しさがありましたね。悪夢のシーンも」

和田「悪夢のシーンも簡単そうに見えて大変」

平山「『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)を見ていると、『ルビイ』は早かったなって思いました」

 

 イラストレーターでもある和田監督は、撮影前に全シーンの絵コンテを描くという。

 

平山「編集の冨田功さんが最初から尺がはまってる、編集しようがないって。冨田は、和田さんといろいろな駆け引きをして構成したかったみたいなんだけど、がっかりしてましたよ」

和田「ぼくに文句言ってましたよ。(事前に)絵コンテを描いていて、その通り撮っちゃったから」

 

【出演者について】

和田「スクリーンで見たのは久しぶりだけど、あんなにアクションが得意で正義の味方だった真田くんに、もっとヘコヘコしてよとか言って。でも彼は見事にやってくれて。

 小泉今日子ちゃんもよかったし。終盤で名古屋章さんに真田くんが「いい奴でばかな奴」って言われて、真田くんを見つめる顔がすごくよかった。表情が徐々に変わって、目が潤む。それがよかったって改めて思いますね」

平山「その後がキスで、あれは回転台を使って撮ったから大変で怒号が飛び交って、とてもラブシーンの雰囲気ではなかったですね(笑)」

 

 冨士真奈美など、ほんのわずかしか出番のないゲスト出演も多数。

 

和田「キャスティングがうまくいってるのは監督の技術ではなくて、俳優さんがいい」

平山「和田さんでなかったら、冨士真奈美さんは怒りますよ(笑)」(つづく)