私の中の見えない炎

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高橋洋子 × 高田宏治 トークショー レポート・『北陸代理戦争』(2)

【『北陸代理戦争』の想い出 (2)】

 高橋洋子さんと深作欣二監督が組んだのはこの『北陸代理戦争』(1977)だけのようだが、やはり印象に残っているという。

 

高橋「深作さんには、ドーランが白いって言われた。遠藤太津朗さんに挨拶するシーンです。ちょっと白くしてしまって、すかさず「洋子、白くしたな」って言われました。たしかにもっと粗野に、荒削りにやればよかったといまは思いますね。

 私は左利きで(他の作品では)よく直されたんですが、深作さんには何も言われませんでしたね。

 外の薪割り(のシーン)はロケでしたけど、セットが多かったですね。深作組はもっとピリピリしてるかと思ったら、ユーモアがあってそれでうまくチームワークをまとめてる」

高田「作さんは旅館でいっしょにホンを書いてても、いいとも悪いとも言わない。殺してやろうかと思ったりしたけど、あるとき急に優しく「寒くないか」って。これで女性はやられる(一同笑)」

 

 高橋さんは並行していた『悪魔の手毬唄』(1977)で滝を浴びたせいで、高熱を出してしまった。

 

高橋「(後半の)刺すシーンは吹き替えなんです。だから右手で刺してます。『悪魔の手毬唄』も同じ時期に撮ってて倒れちゃったんですね。渡瀬恒彦さんもジープで事故になっちゃって、私も倒れて本当に大変な映画でした。よく完成したな(笑)」 

 撮影の終わりの段階で渡瀬恒彦が負傷。急遽、伊吹吾郎が代役を演じた。興行的に不入りだったせいか、以後見直そうと思わなかったようである。

 

高橋「当時は当たらなかったけど、いま見ると意外と面白いですね」

高田「もし当たれば私の人生は変わった。私は(過去の作品で)東映に500億稼がせたんです(一同笑)」  

【キャリアの回想】

高橋「80年代に寺山修司さんの(『さらば箱舟』〈1984〉)に出て。あとは、映画は『パイレーツによろしく』(1988)だけですね。70年代に私の青春は凝縮されています。

 私は東京の生まれで、東急線の緑が丘に小学5年生までいて、それから池ケ谷です。でも役では『北の家族』(1973)でも『北陸』でも雪国関係が多かった(笑)。私は『旅の重さ』(1972)みたいな(都会的でない)役が合ってるんですね。

 高校生のときはスポーツばかりやってて、バスケットシューズのまま電車に乗って笑われたことがありました」

 

 高橋さんは高校卒業後、文学座に入所する。

 

高橋文学座の試験では私だけ高校の制服で、みんなロングスカートとか個性的な格好。みんなそんな服で常識問題(のペーパーテスト)を解いていました(笑)」

 

 『サンダカン八番娼館 望郷』(1974)では若き日の “からゆきさん” の役で、その晩年の姿を田中絹代が演じている。

 

高橋田中絹代さんは全身女優さんですね。『サンダカン』では私から先に(撮影に)入ったんです。田中さんは鎌倉から出てこられて、ラッシュを見てた。普通、ラッシュはスタッフしか見ないのに。同じ人の役だから、私を見て盗んでおこうと思われたんですね。

 『北陸』では(周りの共演者から)いろいろ盗めばよかった。人生ってそういう思いの繰りかえしです」  

 『宵待草』(1974)、『アフリカの光』(1975)など神代辰巳監督の作品にも登場している。

 

高橋「クマさんはねばるんです。キャメラはいつも姫田眞佐久さんだから慣れたもので。ずっとワンキャメで、動きが出来上がって役者さんのボルテージが上がるのを待つ。うまくいくときは1回でOKです。早く終わると、姫田さんの家でみんなで麻雀でした(笑)。

 『宵待草』では、高岡健高岡健二)ちゃんとのラブシーンがあったんですが、クマさんが「菩薩になってね」とひとこと。クマさんは女の人の心をひとことでつかむところがありましたね」 

 文学座の同期では故・松田優作がいた。後に映画『ひとごろし』(1976)にて共演した。

 

高橋「優作さんは、あのころは暴力的で「○○を殴る」って言ってたんですが(一同笑)あの役は珍しく気弱(な設定)でしたね」

 

 『北陸』では男を刺して服役するけれども、他にもテレビ『傷だらけの天使』(1974)と『大都会 闘いの日々』(1976)にて殺人者を演じたことがあった。『傷天』『アフリカの光』では萩原健一と共演している。

 

高橋「『傷だらけの天使』ではショーケンのストーカーみたいになって、ショーケンと仲のいい女の人を殺しちゃう。

 『大都会』は、倉本聰さんの脚本で(犯人役だけど)殺すシーンはなかったと思います。北海道から出てきた演歌歌手で、これも北の地方出身の役ですね(笑)」

 

 高橋さんは最近あまり表へ出てこないようだが、この夏に『旅の重さ』のリバイバル上映とトークイベントが行われるのが決まっているという。再評価に期待したい。