私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

“ドラマ 吉祥寺店” のおもひで

 先日、吉祥寺へ行った際にふと思い出したのが、レンタル店「ドラマ 吉祥寺店」の閉店だった。昨201310月いっぱいで閉店してしまったそうで「ドラマカフェ」という喫茶店になっており、やはり同じレンタルビデオチェーンが経営しているらしい(閉店の前後に吉祥寺を訪れることはあったのだけれど忘れていた)。

 いまはなき「ドラマ 吉祥寺店」は、意外なほどマニアックな品揃えが特徴的であった。一部で知られていたのがテレビ『怪奇大作戦』(196869)の「狂鬼人間」があるということだった。

 『怪奇』はさまざまな科学犯罪に立ち向かう特捜チームの活躍を描いた円谷プロ制作のサスペンスドラマ。実相寺昭雄、飯島敏宏、市川森一石堂淑朗佐々木守上原正三などの名監督・名脚本家が参画し、優れたエピソードを輩出した(出来にばらつきはあるが)。

 その第24話「狂鬼人間」は心神喪失者の犯罪を罰しないという刑法39条に反感を抱く科学者(姫ゆり子)が人間を一時的に「狂わす」装置を開発、「狂わせ屋」となって復讐殺人を幇助するという衝撃的なストーリー(脚本:山浦弘靖 監督:満田かずほ)。 

 経緯は明らかにされていないけれども「狂鬼人間」は現在、封印作品の扱いである(安藤健二封印作品の謎』〈だいわ文庫〉に詳しい)。だが1984年に発売されたビデオには収録されていて、入手困難なそれが「ドラマ 吉祥寺店」に置いてあるのだった。およそ10年前、暇つぶしに店内を徘徊していた筆者は、視界に飛び込んできた「狂鬼人間」の文字に目を疑った。ビデオのパッケージは「狂鬼人間」の劇中に登場する大村千吉(出番はわずかだが日本刀を持っていて怖い)で「特に「狂鬼人間」は放送コード等でまず放映は不可能。ビデオならではの登場と言えます」と書かれている。

 調べてみると20年前の時点でこのビデオは吉祥寺店に置いてあったらしく、わざわざ千葉から借りに行かれた方もいたらしい。当時はそれほど貴重だった。

 この店は他にも品揃えがすごかった。邦画ならば農耕と性交を追求する共同体を描いた実相寺昭雄監督『曼荼羅』(1971)、鈴木清順監督のカルト作『カポネ大いに泣く』(1985)、伊丹十三プロデューサーと黒沢清監督が裁判沙汰になってしまった『スウィートホーム』(1989)、若き日の深津絵里筒井道隆が活躍する青春ドラマ『真夏の地球』(1991)。洋画でも旧ソ連の『動くな、死ね、甦れ!』(1989)、三谷幸喜が高く評価する『謎の要人悠々逃亡!』(1960)、人形アニメの怪作『親指トムの奇妙な冒険』(1993)など何故にこれほどマニアック、という顔ぶれである。「狂鬼人間」が紛れ込んでいても不思議はない…。某大手レンタル店より安いこともあって重宝したものであった。

 2000年代の半ばを過ぎて動画サイトが普及すると「狂鬼人間」や『スウィートホーム』のようにトラブルを抱えた作品も、普通に映像が上がるようになった。一方で珍しい作品のDVD化も進み、ネットで容易にさがすことができる。

 レンガ館の中にさりげなくたたずんでいて、個性的なビデオが並ぶ不思議な店。そんな「ドラマ 吉祥寺店」の閉店は時代の移り変わりをさりげなく象徴してもいるのだろう。 

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