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山田太一 インタビュー(1990)・『少年時代』(1)

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 柏原兵三『長い道』(中公文庫)、それをマンガ化した藤子不二雄A『少年時代』(小学館)。藤子A自身の企画・プロデュースで『少年時代』(1990)は映画化され、藤子Aと篠田正浩監督の指名により、山田太一が脚色を手がけた。

 山田太一先生のメインワークはテレビであり、また原作を脚色する仕事は引き受けていないのだが、このときは疎開という題材に同世代としての共感を覚えて取り組んだという。また山田氏は若き日に篠田監督の下で助監督を務めたこともあるので、その縁もあったのだろう。

 以下に引用するのは映画誌「シネ・フロント」(シネフロント社)の第165号に掲載された山田先生のインタビューである。字数の関係により、発言は山田先生の発言に絞らせていただいた。

 (柏原兵三『長い道』を読んでまるで僕の少年時代そのものが書かれているみたいでした。ものすごく自分の過去の体験と似ていたんです。非常に共感しました。書いているときも、ごく近しい世界を描けるという喜びで、心が踊りました

(戦時中に湯河原へ疎開して)この映画の主人公が富山に行ったのと同じくらいに、ゼンゼン別の世界に行った感じがあった。

 僕たちが最初の疎開者だったものですから、受け入れる側にも、まだ疎開者に対して免疫がなかったので、ハレモノに触るように迎えられました。だから僕の場合は、実際にいじめられたってことはなかったんです。ただ、向こうの少年たちにとっても、なんだか異質な変なヤツが1人入ってきたっていう緊張があったし、もちろんこっちだってとても緊張しました

 

 (映画の中で、疎開者の少年・進二が、みんなから話をしろと迫られるシーンについて)僕はそんなことは自分だけのことかと思っていたら、柏原さんが小説に書いているので、えーっとびっくりしたんです…。

 学校からの帰り道、二キロぐらいあったんですが、同級生たちがまわりをぐるりと囲みましてね、僕も “少年探偵団” みたいな話を一生懸命したものです。当時はまだ東京だけに情報があったんですね。特に僕は浅草育ちですから、小学生でも映画をたくさん見てたり、本もわりと読んでたんです。もし話のネタが切れたらいじめられるんじゃないかと思って、必死であることないことを考え出して喋ってました。もしかすると、そのとき恐怖にささえられて話を考えたのが、物書きになった原点かもしれませんね(笑)

 

 (木登り、稲刈り、田植えなど)全部僕は、疎開先で初めて経験したんです。昆虫を捕るっていうようなこともね。都会育ちの僕なんかから見ると、農家の少年たちはそれはもうたくましかったですねぇ

 

 ( “鬼畜米英” といわれる)アメリカ人が実際に進駐して来て、それほどひどいことをしないようだとわかってきたとき、アメリカ人ってすごいなと思いましたね。もしこれが逆に日本が勝ったんだったら、敗戦国に対してもっとえばったろうと思ったんです。日本軍だけじゃなく、僕自身もね。だって戦時中、僕らは軍国主義を徹底的に教え込まれて、アメリカ兵と見れば、みんな突き刺して殺してしまえと思ってたんですから。自分たちがそんなふうに、思ってたからこそ、今度は反対に同じようにやられるだろうという恐怖があったわけですね。湯河原は温泉地なので、進駐軍が日本の女性を連れてジープでよく遊びに来ました。僕らが泳いで遊んでいる温泉プールに、彼らもやって来るんです。もちろんお互いみんな裸ですよ。アメリカ人ときたら、何だか気味が悪いくらい白っぽくて、胸にもじゃもじゃ毛なんか生えていた。ところが、とても優しいのね。そういうことで人間について、考えさせられて、人格教育をされたなという気がしますね

 

 少年のなかにも、純粋さだとか複雑なところとか、大人と同じようにいろいろあって、少年も大人も、本質的には同じだと思います。反対に、すれっからしみたいに言われてる中年だって、恋をすればドキドキして純情だしね。ただ、少年が大人と違っているとすれば、自分を意識する程度が、やっぱり大人より浅いでしょうね。だから武という少年は、進二を好きなんだか嫌いなんだか、自分でもわからなくなってしまう。本当は好きなのについいじめてしまったりするんです。なぜかというと、武のような田舎のエリートは、都会というものをしょってきた人間に対して、すごくコンプレックスがあるわけです。だから負けまいとする。でも反面、進二への強い憧れと好きっていう気持ちがあって、そこで非常に引き裂かれるんですね(つづく)

 

以上、『シネ・フロント』第165号(シネフロント社)より引用。

 

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