ストーリーを作るとき、僕は役の履歴書を細かく設定するんですよ。生年月日も含めてね。実はその生年月日に起こった事件が、後々の人間の人生を左右するということを毎回やってるんです。今回で言えば、竹野内豊くんが演じている主人公の英器の誕生日は大久保清の逮捕された日。つまり、時代の欲望を描き出したような犯罪が生まれた日に英器が生まれたということで、彼もまた保険調査員として時代の欲望と格闘する人生を選ぶことになるってね。
そんなことは現実に起こるはずないんだけど、脚本の中では僕が神だから(笑)、僕が決めた運命のレールに乗ってもらいたい。それに、そういうものを受け取ると、役者は調べます。自分はどういう時代に生まれたのかを。つまり、役者にとっては役作りの第1歩。だから、その履歴書は、僕から役者に対する手紙なんです。
そうやって、キャラクターを作り、ストーリーにのめり込んだあと、必ず1回引いてみますね。それをしないと、単にストーリーを転がすことだけを楽しんでしまうから。この展開にどういう意味があるんだ、自分はここで何がやりたいんだと、常に問いかける。
脚本作りの作業って、常に自分との対話なんですよ。
その他の悪女映画
※『氷の微笑』
演出があざとくて、かなり下品。ただ、ヒロインが善か悪かってことで転がしていくストーリーテリングは見るべきものがある。
※『アパートメント』
あるシーンを後になって別の人間の視点から映していく、その手法がおもしろい。それがナゾ解きにつながっていくわけなんです。
※『蜘蛛女』
ここに出てくる10本の中で一番おぞましい悪女だなと思ったのがこれ。それと、最後に男が見せるなんともいえない孤独感が切ない。
※『白いドレスの女』
40年代の暗黒映画を目指したハードボイルドの典型的な作品。ニコール・キッドマンとは違う暗闇を背負ったキャサリン・ターナーがいい。
※『愛という名の疑惑』
もう、全編ヒッチコックへのオマージュという感じの作品。『めまい』とか。でも、その辺に挑戦して、うまく作ってるなと。
※『悪魔のような女』
55年にアンリ・ジョリュジョ・クルーゾ監督が作った映画のリメイク版。内容はほぼ同じだけど、やっぱり昔の方に深みがあったような気が。
座右の3作
①志水辰夫
人間の描写力が参考に。『飢えて狼』『背いて故郷』等初期作品が好き。
美文調。もう美術品だと思う。『春の雪』に心酔。
『呪われた町』が一番好き。
以上、心の師匠としている作家(「Zakki vol.1」〈ビクターブックス〉より引用)
もとより映画に強いあこがれを抱いていた野沢氏だけに、さまざまな映画をリサーチしているのが興味深い。
そうやってつくられた『氷の世界』(1999)だが、その公式サイトの掲示板には野沢氏自ら登場し、視聴者とやりとりをしていたという。最終回放送後に掲示板は荒れたそうでネットに不慣れだった野沢氏(当時は黎明期だったゆえ大半の人が慣れていなかっただろうが)は罵倒の書き込みにかなり参ってしまったようである。『氷の世界』のシナリオ本(幻冬舎文庫)を読むと、『青い鳥』(同)や『リミット もしも、わが子が…』(読売新聞社)といった他のシナリオ集にはついているあとがきや創作日誌がない。この作品にまつわる出来事はそれほど苦い経験だったのであろう。