私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

野沢尚 インタビュー(1999)・『氷の世界』(3)

 野沢尚没後10年企画(?)として以下に引用するのは「Zakki vol.1」(ビクターブックス)に収録された野沢尚氏のインタビュー記事である。

 このインタビューが行われた1999年には、野沢氏は向田邦子賞を受賞しており、脚本家・小説家として注目を集めていた時期である。筆者の手元に1999年の野沢氏のインタビュー記事が複数あるのだが、それだけ取材も多かったのだろう。以前アップした記事では過去のテレビ作品や小説の創作について話しているのに対し、このインタビューではテレビ『氷の世界』(1999)のシナリオ創作に際してヒントになった映画などについて説明している。

 

 ミステリーを盛り上げる鮮やかな悪女達

 とにかく悪女が登場するミステリーというのをやりたかったんです。それで『氷の世界』というドラマを作ったわけなんですが、その時、いわゆる“悪女もの”といわれる映画を10本、改めて見直しました。といっても、これらを参考にしてヒロインを作ったというわけじゃないんです。いつも、新作を考えるときは関連した映画を見るんですけど、それはモチベーションを高めるため。つまり、これぐらいは超えてみろよという、自分への叱咤激励。ただ、『氷の世界』をやろうとした時、一番最初にイメージしたのは、『冷たい月を抱く女』のニコール・キッドマン。最近の『アイズ・ワイド・ショット』でもそうだけど、いかにも悪そうな女でしょう(笑)。なんか、抱えてるぞ、この女ってね。ああいう雰囲気を持つ女を作ってみたかった。

 

 ひとりの女に翻弄される男3人という構図は『LAコンフィデンシャル』の形が一番近いかな。脇役のキム・ベイシンガーをもっと前面に出して、アクティブにした形をイメージした。それと、『華麗なる賭け』のプロットの仕組みも少し似てるかな。保険調査員のフェイ・ダナウェイと犯罪者のスティーブ・マックイーン。この男女の構図を逆転させたわけです。で、敵対関係がやがて恋仲になっていくというね。これは、いわゆる恋愛ハードボイルドの定番、なんですよ。だから、自分の中にはスタンダードなドラマに挑戦したいって意識があったのかもしれない。

 

 基本的にフジテレビの月曜9時という枠は、中学生も見る時間なんですよ。だから、そう突飛なことはできなかなと。まぁ、この仕事を受ける時に、時間枠は気にしないでいいと言ってもらえたので、あまり意識しなくてもいいんですけど。“月9” の恋愛ドラマって登場人物の心情に理屈をつけがちなんですよね。それが、わかりやすさにつながっていくんでしょうけど。でも、恋愛ってそんな理屈じゃなくて、ある段階でガッと始まっていくものでしょう。そういう意味では『郵便配達は二度ベルを鳴らす』みたいに、なにかの勢いや、動物的な本能で受け入れてしまう、そんな恋愛劇がちょっとできたらいいなと思ったんです。

 

 去年、僕が書いた『眠れる森』では視聴者が犯人探しの方に加熱してしまって、テーマに殆ど関心を払ってもらえなかった。それは結構辛いところで、今回はその反省もふまえて、ちゃんとテーマが伝わるように作ったつもりです。氷のように非情な世界を生き抜くためには、何を支えにすればいいのか、それは一言で言えば“愛”なんじゃないかとね。だから、ラブストーリーとしての線もハッキリ出てると思います。

 

 もちろん、ナゾ解きの部分もかなりひねってます。登場人物の動きをちゃんと整理しながら見てる人じゃないとわからないんじゃないかな。まぁ、1本ぐらい、そうやって見るドラマがあってもいいと思うんです。今のテレビドラマって、視聴者の反応を見ながら1本ずつ作っていくでしょう。つまりそれは、1本見なくてもわかってしまうドラマってことなんですよね。でも、1本でも見逃したらもうわからないというような緊張感を視聴者に強いることも、テレビはやるべきなんじゃないかなと思うんです。僕のようにあらかじめラストが決まっていて、役者はそこから逆算して役作りをしていく、そういう作り方は、まだまだ異端の部類に属するけど、いずれ主流になってくれればいいなと、どこかで思ってるんですけどね。つづく