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大河原孝夫 × 手塚昌明 トークショー レポート・『誘拐』(1)

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 大企業の重役が誘拐され、犯人はその身代金3億円の受け渡しのテレビ中継を要求。謎めいた指示で警察とマスコミを翻弄する犯人に、叩き上げのベテラン刑事(渡哲也)とアメリカ帰りの若手刑事(永瀬正敏)が立ち向かう。

  1997年に公開されたミステリー大作『誘拐』はメジャーな日本映画としては珍しく、ベストセラーの原作なしで制作された挑戦的な作品である。1995年に城戸賞を受賞したオリジナル脚本(森下直)に惹かれた富山省吾プロデューサーが、映画化に向けて動いた。

 前半の見せ場である身代金の公開受け渡しのシーンでは、新宿・銀座などでゲリラ撮影が行われた。撮影には『剱岳 点の記』(2009)などで知られる木村大作以下、35名のカメラマンが参加。地上、ビルの屋上、ヘリコプターに複数のカメラが据えられた。エキストラは最大時で500人。これだけの規模の撮影が一発勝負で行われた。あか抜けない画面設計やありきたりすぎる人物設定など、なんとなく野暮ったい雰囲気のある映画ではあるのだが、“洋高邦低” と言われた洋画天国の時代に、邦画でもやってやる、という作り手の気概を感じさせる作品である。

 公開から16年後の今年の2月、川崎市にてリバイバル上映が行われ、大河原孝夫監督と助監督を務めた手塚昌明監督のトークショーがあった。トークでは『誘拐』の裏話と助監督時代の想い出が語られている(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや、整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

【『誘拐』撮影の裏側】

大河原「富山プロデューサーから話がありました。松岡功(当時の東宝会長)さんが、これを映画にしたらいいと言い出したと。

 脚本の森下さんは見る人の気持ちをつなぎとめたいがために、事件ものにした。

 津波さん(渡哲也)は、当初のシナリオではもっと庶民的なおっさんでした。そういうほうが面白いという、森下さんのイメージですね」

手塚「ボタンとか写真とか、ちゃんと前ふりがある。やっぱりよくできてますね」

大河原「(シナリオと完成した映画は)全体は変わってないです。ただ途中で○○が湖に来る。それを映像にすると何かあると判っちゃう(からカットした)。シナリオは文学性が強かったんだけど映像では誰が犯人かというのはフックになるので、そういうところを落とした。

 (シナリオでは)貨物列車だったけど、これでは成立しないので高速にした」

手塚「謎解きをどうするかって木村さんが吠えてて、あるとき「高速だ!」(笑)」

 

 新宿、銀座など舞台が移動するのでロケ地探しは大変だったという。

 

大河原「人が入れない屋上のネオンとか。この(シーンの)次でここは(つながりが)おかしいと思われてはまずいので。木村さんは何年分のロケハンと言ってた」

手塚「ロケハンでは次々メモしなきゃならない。この作品では自殺しようかと思った(笑)」

 

 ハイライトである受け渡しのシーンは困難を極めた。

 

手塚「エキストラ500人を3時間前に集めて、散って支度して、何時何分に集合って。前の日にも同じ場所でリハーサルをしました。

 エキストラはこっちの仕込みで、その外にいるのは通行人です。2分くらいで撮って、終わると蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。社員に声かけて、大作さんも親類縁者に声かけて、しょぼいモブシーンにならないようにしましたね。

 報道陣のカメラはほとんどつくりもの。156台つくった。このカメラは『絆』(1998)でも使ってます。

 交番で衣装の人が「田舎から出て来たんですが、歌舞伎座はどっちでしょうか」って狭い交番の真正面に立って訊いて注意をそらす。あのときは心臓の鼓動が自分でも聞こえました(笑)。

 木村さんも整然とやってましたね。怒鳴ったらばれるから、終わったら怒鳴る。「手塚、何やってんだ!」(笑)」

大河原「警察には「何してんの」と3回注意して、聞かないと実力行使というルールがある。注意されても、渡さんも「中止しませんね?」って顔でこっちを見るし」

手塚「警察が来たとき、監督は「自分はバイトで、あいつが監督だ」と。監督が捕まると撮影が続行できないから、制作部が捕まる。で、その人は始末書です。

 (撮影の)許可はどこも出してくれない。エキストラが動くと公道が渋滞するし」

大河原「ヘリも一発勝負で撮影しました」

 

 犯人の要求を聞く会社役員室のセットは70坪の大掛かりなもの。黒澤明監督の名作『天国と地獄』(1963)に迫るために引いた画を撮りたいという木村大作カメラマンの要望で、大規模なセットが建てられた。

 

大河原「木村さんは『天国と地獄』に負けないぞって言ってて」

手塚「『天国と地獄』に迫ろうって言ってたのは、木村さんだけ(一同笑)。「警視庁を見に行こう、おれが行けば大丈夫だ」って言ってたけど、案の定止められてた(一同笑)」(つづく 

誘拐

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