私の中の見えない炎

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田村亮 × 清水綋治 × 原知佐子 トークショー(実相寺昭雄展 ウルトラマンからオペラ『魔笛』まで)レポート(2)

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【ラブシーン】 

田村「『無常』(1970)は近親相姦の話でしたからラブシーン、濡れ場の多いこと。またねちっこく撮るんですよ。女優さんは大変だったと思う。男はまだ楽なんだけどね。

 唾が好きでしたね。キスシーンで糸を引いてくれって言うんだよ。でも、相手からこっちに糸を引くって難しいでしょう。気持ちいいものでもないし(一同笑)」 

 

 『宵闇せまれば』(1969)にも女子学生の口から流れる唾のアップという、何とも言い難いシーンがある。 

 

「(実相寺は)女は物と思っている節があったね。映画でも男の人にはまだ精神があるけど、女にはあまりそういうのを感じない」 

清水「そうか。でもラブシーンでは、男はあまり撮ってないんだよ。女の人を映して、男は移動させるだけだから楽なんだ(一同笑)」 

「私は濡れ場は一度もないんですよ。失礼しちゃいますね(一同笑)」 

田村「やっぱり自分の女房を見られるのは厭なんだ(一同笑)。

 『無常』は、もう昼間からからんでるシーンが多くて。ト書きは一行だけなんです。こりゃ1時間くらいで終わるかなと思ったら1行なのに何十カット撮りますって。おかげでカットごとに何十回もからみをして5時間くらいかかりました(一同笑)」  

【役者と監督】 

 故・岸田森は実相寺監督と親しく、テレビ『怪奇大作戦』(1968)、映画『曼荼羅』や『哥』(1972)などで組んだほか『歌麿 夢と知りせば』(1977)では主役・歌麿役で起用された。『曼荼羅』でも、主役ではないのだが、岸田の目を見開いた怪演は印象に残る。 

 

田村「『哥』では岸田森さんとコミカルにやろうって話をして。撮り始めたら、ふたりとも吹き出しちゃって。監督は、面白いけどやめようって。岸田さんはコミカルな演技が好きでしたね」 

清水「岸田さんは狂気じみたことが好きな役者さんだったね。それを実相寺が、うっとり見てるという(笑)。それと草野(草野大悟)は、やっぱりすごいやつだったよ」 

 

 故・草野大悟は『怪奇大作戦』『曼荼羅』などで起用されている。岸田森が、元妻の樹木希林内田裕也の前)、草野らと結成したのが劇団 “六月劇場”。清水氏ら『宵闇』に出演した男子学生3人が、このメンバーであった。 

 

「まあとにかく、役者に言わない人でしたよ。ほんとに理解できない(笑)」 

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【印象に残る出演作】 

田村「『無常』は宿泊がきつかったのをよく覚えてるんですが、『哥』はまたとにかく金がなくて。(旧家の場面で、どこがセットでどこがロケかを問われて)立派だったなら、ロケです(一同笑)。(予算の半分が美術費だったと聞いたが、と問われて)それくらい金がなかったんです(一同笑)」  

 1986年に実相寺監督が “火曜サスペンス劇場” の1本として撮った『青い沼の女』。泉鏡花『沼夫人』を原作としたミステリードラマであった。 

 

田村「『青い沼の女』の沼は全部セットなんです。狭いセットで沼をどう映すかがきっと難しかったんでしょうが、監督は実験的にしたいと言ってたと、カメラの中堀正夫さんが話してました。 

 カメラのレンズの周りにワセリンを塗るんです」 

 

 ワセリンを塗ると映像がぼやけて幻想的な映像が出来上がる。こうすると照明のライトがうまく隠れてくれるという効能もあったという。 

 

田村「で、いつも監督本人がカメラをのぞくんです。もちろん中堀さんはいやがるんだけど(笑)。

 いまはなくなった東宝ビルトのセットで、山本陽子さんをだっこして沼へ入るんだけど寒いこと(笑)。

 ぼくはもう4本目だか5本目だかで監督の手のうちは判っていたんですが、陽子さんは初めてですからね。監督の好きな魚眼レンズで陽子さんがとんでもない顔に映ってて、彼女は「え?これでOKですか」って(一同笑)」  

 1989年に、にっかつの “ロッポニカ” 枠の一本として撮ったのが、マルキ・ド・サド原作の『悪徳の栄え』。主演は清水氏である。 

清水石橋蓮司寺田農が脇だったんです。で、まあ蓮司はあの通り怖いですからね(笑)。農(ノー)ちゃんも怖いけど、事前に一度話す会をもうけてくれって言ったことがあります。怖いもん(笑)。

 『悪徳』のときに限らず、実相寺作品はいつも金がなくて戦いながらつくっているというところがありました。そんな実相寺のおもしろさ、けったいさを誰かに解き明かしてほしいですね。ほんとに極北にいる人でした」 

 

 トークが終わって展示を見ていると、原氏が来られていたが、口やかましい監視員に、ペットボトルをしまってくださいなどと注意されていて、まさか実相寺夫人とは思ってないんだろうなと思わず笑ってしまった。 

 

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