ドラマというのは有機体のようなものだと、私は思っています。無意識の部分や理屈にあわない部分が排除されたドラマはつまらない。すべてが論理的で、全体が明晰に見渡せるドラマは、とてもうさんくさいのではないかと…。
『荘子』という本におもしろい話が載っています。人間の身体には七つの穴があいていて、その穴によっていろいろなものを見たり、吸ったり、味わったり、いろいろな思いをしながら幸福を得ているというのですね。ところが、渾沌という名前の帝王には、その穴がひとつもなかった。それでは気の毒だと、日ごろ渾沌にお世話になっている帝王たちが、恩返しのつもりで渾沌の身体に穴をあけてあげることにしたという、とんでもない話なんです。そうして一日にひとつずつ穴をあけていって、七つめをあけたとたんに渾沌は死んでしまったのです。あるはずの穴がないのは、マイナスと言ってもいいでしょう。しかし、そのマイナスを正したとたんに、渾沌は死んでしまった。これとおなじで、個の欠点を直すことで、ドラマ全体が死んでしまうこともあるのです。
続きを読む