私の中の見えない炎

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荒井晴彦 × 吉田伊知郎(モルモット吉田)トークショー レポート・『笠原和夫傑作選』『昭和の劇 映画脚本家・笠原和夫』(3)

【仕事の方法論】

荒井「(笠原脚本を)やっぱり読むと自信なくなるよね(一同笑)。とても書けないなあと。全部が傑作ということじゃないと思うけどね。プロっていうのは妥協点をどっかでさがすんだなということが見えるホンもあるし、ほんとに書きたいことはこうじゃないんだろうなという場合も」

吉田「笠原さんの調べていく力は本当にすごいですね」

 

 『昭和の劇』(太田出版)では、シナリオを変えられた不満が述べられている。

 

荒井「『仁義なき戦い』(1973)では、シナリオ通りにするから撮らしてくれと深作さんが電話したと」

吉田「ただ『県警対組織暴力』(1975)ではシナリオ通りきっちり撮られすぎていると、逆に笠原さんが不満を言っています」

荒井「それを言っちゃダメだよね(笑)」

吉田「シナリオがぐちゃぐちゃの『仁義の墓場』(1975)が、意外に笠原さんはお好きなんですね(笑)」

荒井「シナリオっていうのはつじつまじゃないですか。その理屈を気持ちが動くようなものにしていくのが演出で、そうしてくれと脚本家はいつも思っているんじゃないのかな。脚本以下になることが多いわけでしょ(笑)」  

吉田「荒井さんと笠原さんは相通じます。脚本料のことをあけすけに言いますね。関西の人間はお金のこと平気で言うんですけど」

荒井「おれは東京育ちなんだけどね。ただギャラ隠したりする人が多いから、お金のことで戦うところはいっしょに戦ったほうがいいのになと思う。それと笠原さんはプロ意識があるから、生活のために書いてると。なかなかそういうことを言う人はいない。食うためにやってんだと。いまの若い人とは違う。撮りたいから撮るとかバカじゃないのと(笑)。

 池田敏春が『人魚伝説』(1984)で笠原さんに頼んだとき、池田は笠原さんのファンだったんだろうけど、ATGじゃ自分のギャラを払えないだろうと断る。そこがすごいな。おれなんか、いいやじゃあ、ただじゃ厭だけどと。

 笠原さんの仕事のやり方を知ってれば、合わないってのはあるよね。自前で調査に行って時間かかるし。体も壊してるしね。お金はもらうけど、それに見合う仕事はするんだっていう。ただ『226』(1989)の第1稿を読むと出来上がった映画と全然違う。妥協もするんだ(笑)。ただほんとはこっちなんだよっていうアリバイができるから。映画はつまらなかったもんね。秩父宮の時計の話は聞いてたけど。ホンを読むと迫力が違う」

吉田「ただ商業映画の枠を逸脱するようなことはやりすぎていないですね。『昭和の天皇』もそうですね」

荒井「『昭和の天皇』は自分で映画にならなくてよかったって言ってるけど、全然だよね(笑)。『あゝ決戦航空隊』(1974)ではあれだけ天皇批判を。右からの批判で、右からのほうがきついと思うんだけど、それで『昭和の天皇』にも期待したけど(笑)」

吉田「バランス、折り合いというか。『226』の秩父宮もうまく匂わせるくらいですけど、映画会社では問題になるんですね」 

 笠原和夫は興行を重く考えていたという。

 

吉田「『櫻の園』(1990)について笠原さんが「この映画を山谷の労働者たちは見るのか」って言ったら、プロデューサーの成田(成田尚哉)さんは「見てもらわなくていいです」(一同笑)。笠原さんとしては考えられない。老若男女に見てもらわなくてはいけない」

荒井「そこが違うんだよね、ぼくらとね。お客さんをどういうふうに思ってたのかな。ぼくは、お客はバカだと公言してるから。でも笠原さんは客が入ってなんぼ、客に見てもらって映画なんだという」 

 未映画化の『仰げば尊し』も収録されている。

 

吉田「3巻目に収録されている『仰げば尊し』は、笠原さんが自分で原作権を購入していて、90年代以降の荒井さんと同じようなことをされていますね。自分で企画・原作も見つけるというプロデュース的なことをしなくちゃいけない時期になってきたという」

荒井「いや、ぼくはロマンポルノをやってるころからそうですよ。つまんない原作押しつけられるより先に出そうと。裸があればいいということで、プロデューサーにこれやらないかと。でも自分の企画よりいやいややらされたほうが結果はいいという不思議なこともあって(笑)」

吉田「『仰げば尊し』も今回初めて読むことができて、誰かに映画化してほしいですけど。『昭和の天皇』もそろそろいけるんじゃないですか。平成も終わることだし」

荒井「何年か前に、あれを映画化したいからちょっと直してくれと言われたこともあるんだけど。そこで戦争責任の部分をちょっと、見逃さないぞと(笑)。それだとメジャーな会社は乗らないですよ」(つづく