私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

蓮實重彦 トークショー “ハリウッド映画史講義” レポート・『夜の人々』(2)

 現在、アンドレ・バザンをめぐるシンポジウムが行われていますが、今回の27本を見ていただくほうが、バザンの理論を究明するよりはるかに重要ですから。

 『拳銃魔』(1948)、これも素晴らしい。『夜の人々』(1948)によく似た話です。女のほうが悪(悪人)すぎるのですが。

 『悪の力』の主演の役者も出ている、ジョン・ベリー監督の『その男を逃すな』(1952)。87分くらいですが、日本でも世界でも上映されることのない作品です。ごらんいただければ、そんなことは望んでいないかもしれませんが、私との友情が少しずつ形づくられてくると思っております(一同笑)。『ショックプルーフ』(1949)、これまたダグラス・サークの優れたフィルムノワールであると同時に心理的サスペンスで、実に素晴らしい。この2本が同時期に上映されるというのはありえないことで、東京は優れた映画都市であるということを、少なくともこの数週間は思います。

 『その女を殺せ』(1952)、フライシャーのものでB級そのものというテンポのよさ。遠くに車が走ってるだけでドキドキする。

 何をごらんくださいと申し上げていると全部見てくださいと申し上げているようですが、そうではありません。前提が存在いたします。『死刑執行人もまた死す』(1943)は当然誰もが見ていなければならない映画であり、それを知らずにここにいらっしゃるような方は後で私が追及いたします(一同笑)。『死刑執行人もまた死す』は長い映画ですが、当然見ていただきたい。オーソン・ウェルズの『上海から来た女』(1947)は比較的短い。ばっさり切られて短くなったという説がありますが、この作品と『死刑執行人もまた死す』は絶対知ってしなければいけない映画ですから、秘かに恥じて人に見られないようにこの場を去っていただきたい(一同笑)。 

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 当然知らなきゃいけないものと当然というほどではないが見ていただきたいものというふたつの系列を申し上げましたけれども、40年代後半から50年代にかけましては、シナリオライターが活躍した時代です。その多くは第二次世界大戦中にアメリ共産党に接近しました。赤狩りのときには、何人もが転向しています。奇妙な映画だと感じたのは『将軍暁に死す』(1936)というルイス・マイルストンの映画で、これはことによってはごらんにならなくてもいいかもしれませんが、そのシナリオライターが誰であるかは記憶にとどめていただきたいと思います。優れたシナリオライターアメリカ映画を支え、その人たちが赤狩りで追放されてしまったということがあるわけです。私はシナリオの映画における地位は相対的な意味しかないと思っているわけですけれども、この時代のシナリオライターはみなさん本気で書いています。 

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 B級映画を撮らせる才覚に長けた3人のプロデューサーがおります。3人のうちひとりはキング・ブラザースと言って3人兄弟ですから合計5人ですが、彼らの作品は見ていただきたい。『拳銃魔』と『犯罪王ディリンジャー』(1952)で、私は『ディリンジャー』が大好きで演出力が素晴らしい。キングブラザースはスロットマシーンでもうけて、その金で映画のほうへ転じました。フランクという長兄、モリスという次兄、何とかいう3人目とでキング・ブラザースという会社をつくって、数年前の映画でフランクが出てきた映画がありました。『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015)がそれで、俳優が演じて粗暴なプロデューサーとして君臨している姿が描かれております。『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』がそのことだけで優れているというわけでは全くなく、むしろダメな映画だと思っておりますけれども。このキングブラザースの映画のスタジオの玄関まで出てきてしまうというのは、お前さんやるなと頭をなでなでしたくなりましたけれども、何せ映画はくだらない(一同笑)。

 2人目、RKOを支えたヴァル・リュートンはクリミア出身で、『キャット・ピープル』(1942)と『レオパルドマン 豹男』(1943)の2本のプロデューサーで、66分と68分くらいで素晴らしい。ヴァル・リュートンをめぐるドキュメンタリーがつくられておりまして、黒沢清監督も登場しますが、ヴァル・リュートンは日本でも少し知られるようになりました。(つづく) 

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