私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

君塚良一 インタビュー(2005)・『MAKOTO』(3)

f:id:namerukarada:20190329234639p:plain

承前)『踊る大捜査線THE MOVIE』(1998)などで知られる脚本家・君塚良一が初監督した映画『MAKOTO』(2005)。以下に公開当時のインタビューを引用したい(明らかな誤字は訂正し、用字・用語は可能な限り統一した)。

 『踊る大捜査線THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ』(2003)が大ヒットした後であったゆえ、かなり野心的かつ自由に撮ることができたようで、君塚の全盛期だったことが伺える。   

観客をホッとさせることに対して、僕はもう興味がなくなってしまった

——どういった経緯でこの『MAKOTO』の監督をすることになったのでしょうか?

 

君塚:自分が監督するなら、ということでオリジナルシナリオも用意していたんですが、それだと僕の思い入れが強くなりすぎて、他のスタッフと一緒に作れないんですよ。それに、あまりひとりよがりの作品を作ってもなぁ、と思っていたところに、プロデューサーがこの原作を持ってきてくれました。「あ〜、なるほどな」と思いましたね。『MAKOTO』にはひとつの軸として監察医のお話があります。『踊る大捜査線』もそうだったんですが、専門的な分野の仕事をこなしていく集団のお話というのは僕の得意な分野なんですよ。取材を徹底的にやれば、なるほどこれは僕に出来る作品だなと思いました。

 そしてもうひとつ、霊が見える主人公の真言と、すでに死んでしまっている奥さんとのラブストーリーがあります。いままでラブストーリーらしいものはやったことはないんですけど、「今回は僕にとってのラブストーリーが出来るな」と思ったんです。TVドラマだと愛は美しいとか、愛は信頼をはぐくむとか、そういうふうに描くもの、描かなくてはいけないものでした。ただ、今回は映画だし、人は人を裏切るとか、人は過ちを犯すということも同時に描けるんじゃないかと思ったんですよ。それをやり遂げることはプロデューサーとの戦いになるだろうと思ったんですけど、僕にとってのラブストーリー、自分に嘘をつかないラブストーリーをきちんと描きたいと思ったんです。  

——脚本執筆に当たって、かなり原作に手を加えたということですが、それは監督にとってのラブストーリーを描く上で必要なことだったのでしょうか?

 

君塚:それもありますが、今回は特に “真実” を描きたいと思ったんです。たとえば幼児虐待の話。原作では実は虐待はしていないと描かれますが、虐待というのは実際に起きていますよね、今の世の中。僕はそこから目を逸らせなくなってしまいました。もっといえば「実は虐待していませんでした」と、観客をホッとさせることに対して、僕はもう興味がなくなってしまったんです。

 それでも、お互いが罪を受け入れたときには神様がくれた優しさみたいなものも描いていますが、“現実” というものから、目を離せなくなってしまったんです。そうなると当然、原作のエピソードを変えることになる。真言と奥さんのエピソードも、原作ではもう少しファンタジックに描かれていたんですが、僕としては、誰かがファンタジーを背負う物語にはできなくなってしまったんです。そうしたら、まぁ、原作をいじりだしてしまいまして…。郷田マモラさんにも了解してもらって、と言ってもかなりびっくりしたみたいですけど(笑)。

 

——その結果でしょうか、完全に “善” なる人間はいなくなりましたが、反対に完全に“悪”の人間というのもいませんよね?

 

君塚:そうですね。それは映画の中でも哀川哀川翔さんが言っていますが、つまり一つの中に二つの面がある、ということですよね。僕も最初からぼんやりとは分かっていたんですが、やはりソコはきちんと描かないといけないなと思うようになりました。

 人間は、世の悲劇に涙する一方で、人の失敗に笑ったりする。これはみんな分かっていることです。では、今までどうしてそれを描かなかったかというと、一人の人間に二つのことをやらせてしまうと、キャラクターが分からなくなってしまうからなんです。たとえば月9ドラマの主人公の女の子が、家に帰ると犬をいじめたりしているなんて描いたら、観ている人はワケが分からなくなってしまうでしょう。つづく

以上、“シネトレ”より引用。

 

【関連記事】君塚良一 インタビュー(2002)・『脚本通りにはいかない!』『ホーム&アウェイ』(1)