私の中の見えない炎

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君塚良一 インタビュー(2005)・『MAKOTO』(1)

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 『踊る大捜査線』シリーズで知られる脚本家の君塚良一が監督・脚本を手がけた映画『MAKOTO』(2005)。完成度はともかく意欲は感じさせる作品で、いまも印象に残る。公開当時の君塚のインタビューを以下に引用したい。

 

——君塚さんはずっと脚本家としてやってこられたわけですが、最終的に映画監督を目指してたんですか?

 

君塚:映画は高校生の頃から撮りたかったけど、ずっと監督になりたいと思ってたわけじゃないです。でも、10年くらい脚本家やってると慣れてきて日々充実してこなくなるのね。挑戦しなくなる。そんな時に映画のお話いただいて、これは毎日ワクワクドキドキできるかな?と挑戦してみたんです。

 

——初めての監督でとまどったことは?

 

君塚:大学時代に東宝撮影所でバイトしてて、現場のこと自体はわかってたのでとまどいはなかったんですよ。でも、今までは脚本書いて、それを監督に「さあっこれをどう撮るんだ!」って投げつけてたわけなんですが、今回は投げつけるのが自分で(笑)。今まではセリフっていっぱい書いてたんですけど、いざ冷静に監督として君塚良一が脚本を分析すると、意外なことにセリフをどんどん切っていったんですね。これまで自分の脚本のセリフを監督が切ったりすると怒ってた(笑)んだけど。これが切れるんだな。セリフで表現せずに、それを映像で表したり、演技で置き換える。そういうことが分かってきて自分で平然とセリフを切っていったんだね、それはとまどいと言うより、自分で驚きましたね。

 

——映像で見せていく映画ってむずかしいのでは?

 

君塚:うん。今の映画は基本的にセリフで押しちゃう映画が多いと思うし、僕の作品ももっとアップで撮るべきだしね。でも、僕が好きな映画とか、撮りたい映画って映像にこだわって、映像で何かを伝える映画で、それに挑戦したんです。たとえば「僕は悩んでるんだ。どうしたらいいんだ」ってセリフで言わせる代わりに風を吹かせたりして内面の動揺を描くとね。

 

——お好きな映画ってたとえば?

 

君塚:70年代、高校生の頃に見た日本映画ですね。斉藤耕一監督の『約束』(72年)、神代辰巳監督の『青春の蹉跌』(74年)とか。どちらも静かであるってことです。登場人物の後ろで芝居を客観的に撮って、物語の結論を出さずに観客にゆだねる。想像させる。役者に大きな芝居をさせず、自然な芝居をさせる。だけど、映像にこだわっているというね。  

——今回の映画化作は郷田マモラさんの同名コミック『MAKOTO』が原作ですけど、原作に共感したところは?

 

君塚:この原作はプロデューサーからの提案なんですけどね。『踊る〜』もそうなんですけど、僕は専門的な仕事をプロフェッショナルたちがワイワイ雑談しながら手を抜かず集団でやっている、というのはわりと得意な分野なんです。この原作も監察医たちが霊が見える真言(マコト)を中心に事件を解決していったりしてます。それともうひとつ気に入ったのはラブ・ストーリーの部分です。マコトと奥さんとの間のラブ・ストーリーを僕なりのラブ・ストーリーとしてキチンと描けるチャンスだと思ったんです。僕なりというのは、ラブ・ストーリーというのは、ただ愛は美しいとか、愛は信頼を育む、とかだけじゃないんですね。愛は美しいけど、はかないし壊れる。人を信じることは素晴らしいけど、人は人を平然と裏切るとかね。そういうとこをキチッと描いてこそラブ・ストーリーだと言えると僕は思います。世の中の多くの愛は成就してないわけですから。この原作はそこを描ける話だと思ったし、まさにそういう風に作っていきました。

 

——マコトと奥さんとの関係はこの映画のミステリーでもありますね。幽霊が出てくる映画ということで映像も「銀のこし」という特殊な現像方式を使って印象深いです。CGも使ってますね。

 

君塚:幽霊はリアルな霊にしたかったので人間をそのまま立たせてるだけで、その前の闇を深めるためにCGを使ってます。銀のこしは現実の世界とは違う世界に観客を連れていきたかったので色が褪せて、コントラストがきつくなる現像法を使いました。あと、監察医である東山紀之さんたちが着る白衣も黒にして、ごついプロテクターみたいなデザインを特注で作ってもらいました。それから画面の中に写り込む看板の文字なんかはCGで消しています。品がないし、この映画はリアルに時代を描くものではないし。いつの時代? 場所はどこ? 現実? いや、すべてが幻かも? と観客に思ってもらうのが狙いですから。つづく

 

以上、サイト “This month Pick up Artist” より引用