私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

高田宏治 × 伊藤彰彦 トークショー レポート・『笠原和夫傑作選』(1)

f:id:namerukarada:20181223003707j:plain

 『仁義なき戦い』シリーズや『日本暗殺秘録』などで知られる巨匠脚本家・笠原和夫

 10月、『笠原和夫傑作選』(国書刊行会)の刊行が始まり、記念して盟友の脚本家・高田宏治氏のトークショー紀伊國屋書店新宿本店にてあった。聞き手は、高田氏を追ったルポ『映画の奈落 北陸代理戦争事件』(講談社α文庫)を著した伊藤彰彦氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。 

笠原和夫傑作選 仁義なき戦い 実録映画篇

笠原和夫傑作選 仁義なき戦い 実録映画篇

伊藤紀伊國屋らしくてお客さんも品がいいですね。お顔を見ると(笑)。前に××でやったときはもっと迫力があって、映画のファンの方は?って訊いたら、そっとしか手を挙げなくて。やくざが好きな方って訊いたらみなさんばっと手を。それで映画の話はほとんどしなくて“私を通り過ぎた極道たち”と」

 

 高田脚本の『北陸代理戦争』(1977)は、公開後にモデルになった人物(川内弘)が射殺されている。

 

高田「横浜での映画の会でトークさせられて、そのときにモアイみたいな男がついて来るんですよ。“北陸代理戦争事件のことを追跡してるんです。話聞かせてもらえませんか”と。そのころ私は、やくざに追われてましてね。裁判になってて、山梨に家内とふたりで逃げたりね。そのときもこの人から電話かかってきて、この人に追跡されたのかなと思うんですが(一同笑)。でも赤裸々に話すのは面白い体験でしたよ。『北陸代理戦争』は笠原和夫抜きでは語れない」 

北陸代理戦争

北陸代理戦争

笠原和夫の人間像 (1)】

高田「ずっと怨念を持つほど、あの方とぼくは親しいつき合いをしてきたんです。

 東映京都で、何の映画だったろうな、撮影所にぼくがいたら白いジャンパーでかっこいい男が入ってきたんですね。笠原和夫さんだと紹介されて。“きのうひどい目に遭ったよ。飯食おうと思ったらいい女に誘われてね、ついラブホテル行って手を伸ばしたら一物があった“と(一同笑)。怒って階段から蹴飛ばしたとか、いきなりそんな話。あれはかましで、あの人のホンはいつもかましから始まるやないですか。かましで終わるんです(一同笑)。ずるいんですよ、売り方が。あの人の骨法はかましとはったりで、かましほど技術がいるものはなくて、露骨にやると吉本新喜劇になってしまう」

伊藤「笠原さんは任侠映画『日本侠客伝』(1964)のころに東京からいらっしゃって、太秦の寮の2階に入って高田先生は3階」

高田「山陰線の太秦東映の寮があって、そこを仕事場にされてました。みんな食事は前の安い中華屋へ行くんだけど、彼だけは毎晩肉持ってきて食う。それで下ですき焼きをして、そこの人が奥さん。近所の床屋さんの親戚で、後でのろけられて。夜は花札やって、ひと晩で200万勝ったこともあるんです。払えるわけもなくて、ぼく寝てたら、顔に1万円札2枚、唾で貼りつけられました。“後輩に借金するわけにいかないから、これで堪忍せえ”と(笑)。兄貴分ですからね、かわいがってもらったし。

伊藤東映は準備費があるときはいい旅館で、お金がないときは太秦の寮に入れられると」

高田東映の前に社員とニューフェースを泊める寮をつくったんですね。コンクリートの塊みたいだったけど、ドアの下に10センチくらい隙間があって雪が吹き込んでくる。京都も寒かったから大変だったけど、中では相撲はとるわ、めちゃくちゃで。タコ部屋みたいで、しばらくそこ。後のほうでは、3階に入れてもらった。女連れ込んで喧嘩したり、酔っ払って窓から小便したり、みんな作家ですよ。その中で野上龍雄さんや笠原和夫は年上でした。わいわいやりながら、お互いのホンをけなしたり。他者作品もけなして、こけたら大喜びする(一同笑)。

 旅館でもそんな感じだったね。夏に蚊帳吊ってたら、外に螢が止まる。女性とならいいけど、隣りにいるのは深作欣二(笑)。任侠映画全盛のころは旅館でした。

 そのころになると笠原さんは、京都に来たころの颯爽とした美青年じゃなくて、タヌキみたいになってて(一同笑)。銭湯上がったら“おれは腎臓ひとつしかないから汗出さないとダメなんだよ”っていつまでもすわってました。ぼくはじっと待って、競馬の新聞読んだりしながら。ときどき機嫌がいいと寿司屋に連れてってくれて、出てきて“高かったな!” 。それでみんなの酔いがぱっと醒めた(笑)。そういう率直な先輩でしたね。いろんな想い出が山のようにあって。笠原さんの魅力、忘れられない稚気があり、怖さもあり、技術もある。心からの愛情でもって、悪口を言うんですね。ぼくが誉めたらどうしようもない。

 笠原さんは綿密に自分のしてきたことを残してるんですね」

伊藤「台本だけじゃなく、関係者との手紙もファイルしてあって、後世に残すという意思がありますね」

高田「でもそれは社会に向けてじゃなくて、自分の生きてるってことを、自分の証しを確認したかった」(つづく) 

 

【関連記事】荒井晴彦 × 吉田伊知郎 トークショー レポート・『笠原和夫傑作選』(1)